マーラーの音楽に、一貫しているテーマは「死」である。「死に対する病的なまでの恐怖」と、それと合わせ鏡の関係となる「生に対する憧れや執着」といった、まさに人間の根源的なところにかかわる大テーマに、生涯に渡って取り組んできた一人の大芸術家の戦いの歴史といえる。
マーラーは、何故それほどまでに死を恐れたのか?
それは、幼い頃に相次いで亡くした両親のうちの、特に心臓病で亡くなった母親の血を受け継いで、自らも心臓の病を宿痾として抱えた事が原因だ。さらに長じて、結婚後に初めて生まれた愛娘を幼くして同じ遺伝の心臓病で亡くした辺りから、その作風は益々死の影に色濃く縁取られていくとともに、皮肉にもその分だけ音楽にも深みが増してくるという結果となった。ユダヤ人として、ボヘミアに生まれたマーラーは「生まれながらの孤児」として、世界中のどこへいっても疎外感を痛感させられるなど、その苛酷な運命は人一倍デリケートな若者の心に、大きな影響を齎した事だったろう。
マーラーの音楽活動のスタートは、指揮者から始まった。その才能を認められて招かれたウィーンへ行っても、また次いで新大陸アメリカへ渡っても「ボヘミアン」として差別される上に、ドイツ人の間では「オーストリア人」として、挙句は生まれ故郷のボヘミアにおいてさえも「ユダヤ人」として差別され、世界中のどこへ行っても邪魔者扱いをされ続ける悲劇を余儀なくされたのであった。
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