7月中旬で3ヶ月契約のレオパレスの期限が切れると同時に、現場も名古屋のF社に変わるのに伴い、元の住居へと戻る運びとなった。それにしてもレオパレスでは、隣室のボンクラ三流大学生に散々に悩まされたものである。
地方から出てきた田舎者として都会近郊に気後れでもあるか、ハタマタいつまで経っても垢抜けない雰囲気から女にモテナイせいかはわからないが、何せ部屋に引き篭もっている時間が異常に多いのには参った。
(一体なにが面白くて、こんなところに蟄居しているのやら・・・)
と、他人事ながら思えたものである。夜間対応の翌日は朝上がりなので、昼のうちに寝ておかなければならなかったのだが、隣から昼夜の別なく聞こえてくるテレビや携帯でボソボソと話す陰気な声が聞こえ、耳について仕方がない。
何せ、生まれついて音には異常なまでに敏感な性質の身には、あのレオパレスの木造の安普請の壁の薄さは致命的だった。これまでは比較的居住環境に恵まれたせいで、鉄筋コンクリートの建築にしか住んだ経験がなく、おまけにワンルームというのも初めての事だった。
が、勿論と言うべきかそんな事情にはお構いなく、アホ学生は6月の終わり頃からは友達を連れ込んでくるのが日課のようになり、それもモテナイせいかゾロゾロやってくるのは、むさ苦しい男ばかりのようである。女学生の嬌声が聞こえて来るのは、それはそれで精神衛生上よろしくないだろうが、壁一枚隔てた隣室から陰気な男の声ばかりが轟くというのは、尚更いただけない。最初のうちの1人がやがては2人となっていき、深夜の2時や3時まで毎日ピクニックにでも来たかのようにワイワイやっているのには閉口させられたもので、翌日にはドアの前に膨れ上がったゴミの山が置きっ放しというだらしのなさである(だらしがないばかりか通行の邪魔にもなり、さすがに酷い時は蹴飛ばしたりしていたが)
これまで未知の土地に住むのは刺激があって嫌いではなかったが、このレオパレスだけはそうした日常にすっかり辟易としていたので、契約終了の時は心底ホッとしたものだった。
そしていよいよ、そのレオパレスを出る日が来た。レオパレス社員の立会いに関して電話をかけると
「3ヶ月の短期契約ですので、立会いは不要です。鍵はお出になる時に、郵便受けから中へ落とし込んでおいて下さい」
との事で面倒がなくなり、ホッとしたところで「郵便受けに鍵を落とし込む」というのがなんとなく少し刺激的な感じがし
(はて?
どんな具合になるんかいな?)
と試してみる事にしたが、うっかり鍵を落としてから鍵をかっていた事に気付いたのだった。
「しまった・・・」
と思わず言ってみたものの、総ては後の祭りである。何せ「実験後」直ぐに部屋に戻るつもりだったから、草履を突っ掛けた普段着である。おまけに財布も中に入れたままだから、まったく身動きが取れない。
(残された道はレオパレスセンターへ電話をして、鍵を持ってきて貰うしかないか・・・)
などと頭を抱えていたところで、ようやく窓を開け放っていた事に気付いた。
冷房が弱いために、部屋にいる時は常に窓を開け放っていたのと、網戸に鍵が付いておらず夜は締め切りを余儀なくされ散々に不自由をしてきたのが、最後のこの時になって思わぬ役に立ったものである。
(そうだ・・・窓から入れるんだよな・・・)
まずはホッと一息ついたが、窓側は芝生を模したようなショボいガーデン風の植え込みに、柵のようなものが打ち込んである。無論、こんなものは飛び越えるのはわけないが、なにせ晴天の真っ昼間でおまけに道向かいには大きなドラッグストアがあり、ただでさえ退屈な日常に刺激を求めて始終好奇の眼をギラツカせているオバタリアンどもが控えていたから、空き巣に間違われてお節介な通報でもされぬものかと些か気にはなったものの、そんなことを言っている場合ではなかった。
かくて草履履きのままに柵を乗り越え、芝生を踏みつけてベランダから我が部屋へ闖入という、なんとも締まらぬレオパレス最終日となった( ´∀`)タハ
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