2004/05/25

浜からの風(中学生図鑑part13)


 2月の初め、横浜から転校生がやって来た。決して、目を瞠るような美少女というタイプではないものの、都会っ子特有のスマートに洗練された雰囲気が、イモねーちゃんのタイプの多い『B中』女子の中では、まさに《掃き溜めに鶴》といった感じで際立っていた。

颯爽」という表現が、これほど相応しいキャラも珍しいとあって、注目度は外見的に見栄えのしないヒムロの比ではなく、逆に「美少年」で騒がれたオロチにも匹敵するレベルであった。

これまで転校生というと、どうしてもヒムロやオロチの印象が強いせいか、なんとなく「優秀だがイヤミなヤツばかり」というイメージが強かったが、残る2人の転校生はあくまでパッとしなかったから、このころには特にヒムロはあくまで「例外的存在」として認知されていた。

ヒョウキン者のヒムロとは対照的に、ハマっ子の梓の方は見るからに勝気の塊のような、やや吊り上り気味の猫を思わせるような大きな目が示す通り、ハキハキとした歯切れのよい口調で明け透けにモノを言うタイプらしい。タダでさえ、スラリとした長身は目に付きやすかった。しかも都会からの転校生のご多分に漏れず、この梓もまたエリート家庭育ちである。

五大商社のI商事に務めるヒムロ家は鶯山の社宅だったが、梓の葉山家は鶯山をさらに登った高台の新興住宅街「虹ヶ丘」に、近代的な一戸建てを構えていたらしい。

 さて、そんな波乱含みの空気の中で行われた、3学期期末テスト。実力は折り紙付きながら、意外にもこれまでトップを張れなれなかった親友ムラカミが遂に、この年度末で天才ヒムロらを抑えて初のトップに立った。

にゃべにだけはこっそり教えてくれたものの、自ら吹聴して廻るタイプではないだけに、代わりにみなの注意を喚起してやった結果、皆から手荒な祝福を受ける事になった。

それでも、いつも通りの冷静さを失わないムラカミは

 「ガタガタ騒ぐんじゃねーよ、バカども」

などと口では悪態をついていたが、やはりその表情にはそこはかとなく、歓びは隠せない。

「ところで、にゃべは?

えっ、なになに?  3番?

そりゃ悪かったな・・・オマエより上に出るつもりは、なかったんだがな」

「このヤロー、さりげなく自慢しやがって」

転入後、6回のテストのうち実に5回のトップを誇っていた天才ヒムロが、2人の間に入る形で2位となっていたため

「なんだ・・・オマエとヒムロが逆なら、最高だったのに」

とムラカミは心底悔しそうに、何度も繰り返していた。

そして今回、皆の注目を集めたのは言うまでもなく、横浜からの転入生の梓だったが、残念ながら順位の情報は入って来なかった。

いきなり、トップを掻っ攫っていったヒムロの例が、あまりにも記憶に鮮烈だったために「都会っ子と言っても、案外たいしたことはないのかもな・・・」と決め付けてしまったにゃべだったが、やはりヒムロの存在が例外と言うべきか。

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