2004/05/07

涙の決勝戦(中学サッカー地区大会part4)


(そんなバカなバカな・・・これまで毎日、夜まで練習して来たあの努力はなんだったんだ?
こんなバカな事が、あってよいはずはない・・・これまでのあの血の滲むような練習が、まったく無駄だったなんて。これは悪夢だ・・・)

かつてないボロ負けの展開に頭を思い切り殴られたように、全ての価値観が音を立てて瓦解していく。これまでの努力を総て否定されるような現実に、答えのない自問ばかりがグルグルと脳裏を駆け巡った。

が、気ばかりは焦れども、疲労の極にあった体はまったく動かず、なす術もないままに一方的な展開が続く。

(このまま終わるわけがない・・・最後に必ず『神風』が吹くはずなのだ!)

という淡い希望もむなしく、恐怖心との戦いで腰が引けたまま、ゲームは終始『A中』ペースで刻々と時を刻んでいった。終了間際に3年生のエース・タケウチが放った、意地の一発が「神風」かと思わせたが、これも嘲笑うかのようにゴールポストに跳ね返されるという「非情な神風」が吹いた。

こぼれ玉は、なんとか拾った。体力的にはピークを超えていたが

(なんとしても、1点は取らねば!)

と最早、執念のみに支えられながらシュートを狙ったところで、ユニフォームを引っ張られた。

PKだ!

「にゃべ、頼むぞー!」

1点でも返して、意地を見せたろーじゃねーか!」

すでに「5-0」と、勝敗は決している。とはいうものの、当事者としてはやられっぱなしで「」のままで終るのと1点でも返して終るのでは、大違いだ。

 試合展開からも、相手のディフェンスは

 (1点くらい、やってもどうってことないぞ)

と言わんばかりの緩い守りだったから、誰もが「1点」を信じて疑わない場面であり、また自分自身もこれまでPKを外した記憶はなかった。

ところが

(何が何でも、1点は返さねば!)

と気負いすぎ、足に力が入り過ぎて信じられないようなミス・・・地面を転がしたようなボロボロのシュートは『A中』イレブンの失笑を買うという、これ以上のない屈辱だ・・・

勝利の女神」から見放されたこのような時は、なにをやっても決まらないもので、みな力尽きて倒れ込んだところを見計らったように、無情にも終了のホイッスルが高らかに鳴り響いた。

『B中』イレブンは疲労と悔しさで、誰ひとり起き上がれない。唯一、必死で気丈に振舞っていたシンヤ主将が、一人一人の手を取り

(ありがとう・・・ありがとう・・・)

と起こしていき、最後にヤケクソじみた号令をかけた。

みな、やり場のない憤りと悔しさをどうする事も出来ぬままに、ようやくにしてユニホームを真っ黒にしながら、夢遊病者のような足取りでヨロヨロと起き上がるが、誰もが真昼の幽霊にでも出会ったかのように、虚ろな視線だけが虚しく宙をさ迷っていた。

 「今日の不甲斐ない完敗は、オレたち3年生の力不足に尽きる。オレたち3年生は・・・まったく、ダメな先輩だったな・・・いい手本になれなかった・・・2年生は、この弱くて不甲斐ないダメな・・・ダメな先輩たちの背中をよーく見ておくんだ(絶句)
今日の悔しさを貴重な糧として、明日から出直して・・・来年・・・来年こそは『A中』を圧倒してみせるまでに、成長して欲しい・・・それが可能なだけの能力を持ったメンツが揃っている・・・とオレらはみんな信じて・・・本気で期待してるぞ・・・みんな・・・今まで、本当にありがとう・・・後を頼んだ・・・・」

悔しさに目を真っ赤に染めた、熱血主将・シンヤの慟哭と悲痛な別れの言葉に、下級生はみな号泣した。そんな中でただ1人、自分の部屋に帰るまでは絶対に泣くまいと決意していたが、帰宅して自分の部屋に入ると、クロガミとドージマの「殺人シュート」に一人、果敢に身を挺したシンヤ主将の勇姿が瞼に浮かぶ。

涙はまったく出てこず、ただただ己の不甲斐なさと腹立たしさばかりがこみ上げてきた。

(キャプテン、逃げてすまなかった・・・来年は必ず、立ち直れないくらいあの怪物を、そして『A中』をコテンパンにやっつけてやるからな・・・)

と、心に重い誓いを立てた。

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