『C中』の方は、頼みの大黒柱であるゴトーが『B中』のDF陣に徹底的にマークされ、まったくいいところのないままにハーフタイムを迎えた。
「『C中』もゴトーってのも、全然大した事ねーんじゃねーか・・・」
『B中』イレブンの中から、こうした油断の声が沸き起こるのも無理もないような、苦戦した前の2回戦より遥かに楽な試合展開だったのは確かだった。誰よりも、ゴトーを最も警戒していたはずのにゃべっちでさえ
(元々ゴトーなんて、あの程度のもんだろう・・・ここまでは、偶々相手が弱かっただけだし、みんな買い被り過ぎなのだ)
と多少拍子抜けはしながらも、完全にナメ切っていたのは事実であった。
しかしながら勝負において、まったく「油断」ほど怖いものはない・・・2点差となってからは、誰もが自分でカッコ良く決めてやろうとの意識が芽生えたか、前半には見られなかった無理なロングシュートや大胆なドリブルなどのスタンドプレーばかりが目に付くようになり、そこに隙が生まれた。
『B中』に生じる隙を、今か今かと狙っていたゴトーのシュートが、遂に決まってしまったのである。
(ゴトーにやられたのは不本意とはいえ、なーに・・・まだリードしているさ・・・)
と、まだまだゆとりはあった。この後、一瞬の隙を突いて3年生のタケウチのシュートが決まり、再び2点差となったことで
(この勝負、貰った・・・)
と、確信するに到った。しかしながら、逆にこの一本から守りに入ったことで流れがガラリと変わり、ゴトーを中心とした『C中』が、すっかりペースを掴み始める。
一旦変わった流れを、もう一度呼び戻すのは難しかった。そのうえ、悪い事に
(まだ2点ある。このまま、逃げ切ろう・・・)
といった消極的な考えが『B中』イレブンの脳裏を支配しつつあった。
なんとか守り続けるうち、後半も残すところあと3分ほどとなったのが、目に入り
(残り3分。まだ2点あるんだから、もう大丈夫だ)
と誰もが安堵しかかったところで、ヤケクソ気味に何度か放っていたゴトーのロングシュートがゴールネットを揺らし、遂にその差は1点となった。
(やばいやばい・・・このまま追いつかれて、PK戦にでもなったら・・・今の勢いでは、やられる・・・)
頭ではわかっていても、守りに入った代償は大きく、相手に傾いたペースを取り戻すことが出来ない。こうして厳しい時間との戦いとなったが、1点差でどうにか逃げ切りに成功した。この薄氷の勝利は、色んな意味で『B中』にとって、後々に残る良い教訓となった。
優勝候補の『A中』は、評判通りの力を見せ付け6-0と相手を寄せ付けずに圧勝したが、前年準優勝の『Fa中』は同じC市の『Fb中』に敗れた。準決勝はまず、その『Fb中』が『A中』に挑んだ。
戦前予想では『A中』がかなり有利と見られたものの、思った以上に『Fb中』のレベルが高く、ハイレベルな鬩ぎ合いが続く好勝負となった末に、2-1で『A中』が辛くも逆転の勝利を収める。続いて登場した『B中』は格下の『Y中』に対し、にゃべっち、イモのアベックゴールで「2-0」と余裕の勝利を収め、いよいよ決勝で難敵の『A中』と激突が決まった。
前年度の優勝校『A中』は、地区随一の名門だ。殊にFWに2枚看板を擁したこの年は、特にその強さが際立っていた。
エースのクロガミは参加選手中で最も注目された選手で、185cmの大柄な体ばかりではなく技術的にも高校生顔負けで、あちこちの私立高校からスカウトが来ていた。これだけでも脅威だったが、さらにRWには2年生ながら180cmを超える長身とガッシリとした体格のドージマという、これまた凄い選手がいたのである。
決勝戦で初めて間近に見るクロガミ&ドージマのコンビは、まさに巨大な「壁」といった感じだった。鍛えぬかれた者だけが全身から発散する、独特の野性のエネルギーのようなものに、初めて間近に触れて圧倒された。
元々、中学生時代といえば2年生にとっては、3年生は体も大きく随分と大人びて見えるものだが、この上級生のクロガミは言うまでもなく、同級生のドージマの方も3年生どころか、どうみても高校生に見えた。ここまで怖い物知らずで来ていた「神童」が、初めて味わう「異次元の世界」であり、生まれて始めて理屈抜きの恐怖に見舞われた瞬間でもあった。
「アリャ、全然モノが違うんじゃね-か?
ぶつかったら、確実に骨の1本や2本は逝かれるぞー」
とDFの3年生が言っていたように、口には出さなかったものの3年生といえど、誰しもが逃げて帰りたいような心境であったろう。しかしそんな心境には関係なく、試合はスケジュールに沿って淡々と行われる。
決勝の試合前には
「PTAの某氏が、試合後にメシをご馳走してくれるそうだぞー。勝ったらウナ丼、負けたら天丼・・・」
というニュースが駆け巡り
「よっしゃー、勝ってウナ丼を喰うぞー!」
と、イレブンは張り切った。
キャプテンのシンヤは
「なーに、大男総身にナントカというし、あれだけデカけりゃ動きが鈍くなるさ・・・
オレたちは、スピードでは絶対に負けんところを見せてやるぞ」
という檄を飛ばし、イレブンの気力を奮い立たせるのに必死だった。
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