2004/05/01

マッハの薄情モン(一族シリーズ)

 実家の母屋はリビングとキッチンが隣り合っていたが、帰省中のマッハはリビングで寛ぐ両親を避けるように、境に設けられた分厚いドアを締め切ってキッチンを占拠し、テレビのアホ番組に夢中になっていた。

しばらくすると、リビングにいたオヤジがキッチンへ入り壊れかけたボロ椅子へ座るや、久しぶりに顔を合わせたマッハに東京での近況などを訪ね始めた。 ところがマッハは、テレビの方に顔を向けたまま(つまり反対側のオヤジには、背を向けたまま)家に居た頃と同じ調子で、気のない生返事を繰り返すばかりだ。

仕方なくオヤジも黙って、マッハの頭越しに見たくもないテレビの方へ、目を遣っていたらしい。

事件」は、その時、起こった!

壊れかけの椅子をギシギシ言わせながら、なんとなく座り心地の悪い思いで、オヤジは椅子の上で胡座をかいていたらしい。ところが、オヤジの重量に耐えるには限界の来ていたボロ椅子が、遂に盛大な音を残してぶっ壊れてしまった。

哀れ、頑固オヤジは大音響とともに、胡座をかいたままの格好で尻からモロに、床へと落下。その時、母は隣のリビングで優雅にクラシックなど訊きながら寛いでいたところで、この突然の大音響に驚いて押っ取り刀で駆けつけた。

その時、母が眼にした光景は・・・

「まぁ~、あの時は驚いたのなんのって!
何しろ、あのボロ椅子が見事にバラバラになってる上に、あの人は引っ繰り返って『イテテテ…』って顔顰めてるでしょ。
にもかかわらずよー、マッハったら知らーん顔してテレビに釘つけになっているんだから・・・まったく空いた口が塞がらんとは、この事だわ。

『大丈夫か?』どころか、何事もなかったかのような済ました顔して、あの人の方をチラとも見もしないんだからねぇ。ありゃあ、どこか神経がいかれてるんじゃないの?」

と、母の怒るまいことか。

というよりは、このマッハのあまりの冷淡さには、怒りを通り越して呆れ果てていた。

当のオヤジも

「アイツはオレの方を見もせんと、まったく知らん顔しとって・・・一体、誰に似て、あんな薄情なんだか・・・」

と、ただただ苦笑いとともに吐き出した溜息にも、さすがに一抹の寂しさは隠せなかった。が、マッハの冷酷さは、実はそんなものではなかったのである。

 翌日、ミーちゃんと顔を合わせたマッハ。

「お母さんが呆れとったよ~。アイツはオヤジの方を見もせんと、知らん顔しとったって・・・」

と話を持ち出した途端に、大声あげて笑い出したマッハ。

「いやー、あまりのあほらしい醜態に、声も出んかったんだって・・・ギャハハハハ」

などと平然と嘯いていたのには、さすがに呆れ返ってしまった。にゃべの目には、かなり薄情なところのあるミーちゃんでさえ

「あれには、私も呆れたわ・・・」

と、ア然ボー然の態だ。

ところがさらに、この帰省中のマッハの狼藉は続く。今度は、にゃべの部屋へやって来たマッハ。下宿先では、万年床の煎餅布団を使っているマッハは、にゃべの部屋にあるセミダブルのベットが殊のほか気に入ったらしい。

「オイオイ、オマエは毎日こんなえーベッドで寝とるんか~。生意気なヤツめ。  結構高そうだな、これは・・・オウオウ、さすがにようバネが効いとるわー」

と、ベッドでトランポリンの真似事を始めた。いかに物が良いとはいえ、大学生で体も大きくなったマッハにトランポリンをされては、堪ったものではない。

たちまち、ギシギシと悲鳴をあげ始めたベッドが気になり

「オイオイ、止めてくれー」

と句を言ったが、遅かった。

《バキッ!》

という嫌な音とともに、マットレスを支える柱が脆くも真っ二つに・・・

「いいか・・・オレが帰るまで、絶対にこのことは言うなよ・・・」

翌日、帰省の予定を早め逃げるように、そそくさと帰っていったマッハは、にゃべに散々念を押して去って行った。

それから数年後に再度、帰省したマッハ。新しく買い換えられたにゃべのフランスベッドと、ン十万円と張り込んだキッチンの紫檀テーブルセットを眼にしたマッハは

「ほら見ろ。オレのおかげで、いいのに変わっただろーが」

と得意げに嘯いていた Ψ(ーωー)Ψ

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