ところが開始早々から、溌剌とした動きを見せるクロガミとドージマの2人は「大男総身に・・・」どころか、誰の目にも明らかに段違いのフットワークを見せただけでなく、そこには大男ならではの迫力が伴っていた。
試合は、序盤から一方的な展開となってしまう。クロガミとドージマの鮮やかなシュートが立て続けに決まると、この辺りまでは辛うじて
「段々とウナ丼が遠のいていくぜ・・・」
などという軽口が飛び出す元気だけはあったものの、皮肉な事に巨漢のドージマと激突したイモが、脳震盪を起こして担架で運ばれて退場の憂き目となった。
「なんか塀と言うか壁と言うか、そんな感じだったぞ・・・一体どう鍛えたら、あんなサイボーグのように逞しくなれるんだ?」
とイモが目を丸くして呆れたように、ドージマもクロガミも単なる「巨漢」と言うだけでなく、中学生とは思えないような強靭な肉体を備えていたのである。
この激突を目の当たりにしたことで、益々『B中』イレブンの恐怖心が高まったか、またしても『A中』の波状攻撃が始まる。ここで「サッカー少年最大の恥辱」のシーンが待ち受けいようとは!
親友・イモの負傷退場で意気消沈したことは否めなかったが、一瞬頭が空白になりかけたところで、クロガミの放ったシュートが唸りを上げて襲ってきた。 あたかも獰猛なライオンが牙を剥き出して襲い掛かってくるかのように、それ自体が命を宿したかの如く、目の前で大きくホップするボール。牙を剥いて跳ね上がって来たそれは、まったく「サッカーボール」には見えなかった。
もろに顔面直撃か?
目を瞑って避けた顔面のすぐ横を
ビューン!
という物凄い唸りを上げ、掠めるように飛んでいくボール。
(間一髪、命拾いをしたか・・・)
と思ったボールは、無情にも歓喜の舞を舞うようにゴールネットを揺らしていた。あんな物凄いボールは、それまで見たことがないという途轍もないこのシュートに、誰もが顔面蒼白となって声を失った。
試合後、ガンゾーから
「ボールから逃げるとは、なんたる醜態!
恥を知れ、恥を!」
と翌日からは来る日も来る日も、石頭のイモとマンツーマンでヘディングの練習をさせられたものだ。
(こりゃ、レベルが違いすぎる・・・まったく、どうしようもない・・・)
負け惜しみの強いにゃべも、既に歴然とした力の差を感じずにはいられなくなって来たくらいだから、最早ここに至って「ウナ丼」云々というジョークを飛ばすような元気な者が、一人もいようはずもなかった。
が、そんなことにお構いなく、容赦のない『A中』の攻撃はさらに続く。怪物クロガミのシュートには、先のあわや顔面直撃シーンの戦慄が誰の頭にもこびりついているか、最早体を張って止めようという勇気あるものは、一人を除いて皆無であった。ただ一人、キャプテンのシンヤだけがユニホームを泥まみれにしながら、クロガミやドージマの「殺人シュート」にも、真っ向から体を張って向かっていく。だが、その姿は「雄姿」と言うよりは、蟷螂の斧そのままの滑稽さでしかなかった。
これまで「強い先輩」の象徴だったシンヤ主将も『A中』の前には、まるで子供扱いであった。鮮やかなテクニックを誇示するように、或いは「キャプテンの意地」をせせら笑うかのごとくに、敢えてそのシンヤを「股抜き」したドージマの見事なドリブルを受け、クロガミのハットトリックとなる3発目が、弾丸のようにゴールに突き刺さる。
さらには、DFの選手にまで余裕のゴールを決められるに至り、遂に「5-0」という考えてもみなかった大差がついた。
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