オリンピックと世界選手権で金メダルを獲得し、世界記録も叩きだした事もある天才ランナー高橋尚子選手のように「陸上のための人生ではなく、人生のための陸上」とまで悟りきった選手は、そうザラにはいないだろう。後援関係者を始めとした周囲の期待といった、外野からは窺い知れないしがらみもあろう。そうした迷いを吹っ切る役割を担っているのが、コーチの存在だ。
トップアスリートは、ある意味「国家に捧げられた生贄」も同然であり、恐らくは常日頃から
「日本にメダルを齎す事が出来るのはお前しかいないんだから、頑張れ・・・」
などと叱咤激励されているのだろう。しかしながら、事は単に苦しいとかキツイといった次元を遥かに超越して「女を捨てられるか?」といった究極的な選択を突きつけられた(勿論、皆が皆そうではないだろうが)選手の方では、ある意味「人生を捨てる」までの覚悟を要するのだから、ここまで来ては最早生半可な誤魔化しなどは到底、通用する世界ではない。いかに口では立派な言質を並べ立てようとも、所詮なにも失うもののないコーチでは、失うものがあまりにも大きい選手を救う道はないのである。たった一つの手を除いては・・・
女子チームの監督が、選手の体重管理に躍起になっているのは、よく知られていることである。理論的に、体重と速度は反比例する。しかし問題は女子選手の場合、脂肪を落としすぎてはいけないという枠があることだ。
≪「体脂肪率22%が、生理不順の起こりやすい臨界点」と言われているが、体重と生理のコントロールが女子長距離選手にとっては重要な問題なのである。
日本の女性マラソンランナーの問題点を梶山洋子が報告している。梶山報告の中に「全国高校駅伝開催前後の月経周期の比較」というグラフがある。これによれば、開催前の1987年1月の都道府県対抗駅伝出場の高校生選手の無月経は5.3%(初経前1.9%)、ところが第3回全国高校女子駅伝(1991年12月)では、23.2%(同6%)へと大きく増えている。
この原因として「体脂肪の減少と、トレーニング量の多さによる身体的・精神的ストレス」を挙げているが、選手の体重が普通の高校生より12~13kgも軽いということを考え合わせると、主たる原因は体脂肪減少に尽きるようだ。では初潮が遅れたり無月経が続くと、どのようなことになるのか。将来の妊娠、出産に対する危惧が懸念される。これは、軽視できない問題だ。テレビ放映で高視聴率を取るスポーツに、青少年が憧れるのはもっともだが、その気持ちを利用し売名のために過度のトレーニングや減量を成長期の選手に強いる環境が、高校女子陸上界にはないだろうか。
このままでいけば、早晩大会の中止や出場制限問題が生じておかしくないし、日本の女子マラソン界にも黄信号がともることになる(アメリカには中・高校生の全国大会はないらしい)
記録を伸ばすには、減量が欠かせない。しかし、そこには生理不順や貧血、骨密度低下、食事制限に対するストレスなど様々な問題が横たわっている。女子にとって最適な減量とは何かは、まだまだ研究途上のテーマなのである≫
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