「しかし正直な話、そこまでしてこちらから頼む気はないから」
と、電話を切ったまではそれなりにサマになっていたが、その後当て込んでいた別件の方が消滅してしまった・・・そして、まさにそのタイミングを見計らったかのように、再度R社のK君から電話が掛かって来たのである。
「その後の経過は、どうなりましたでしょうか?」
「結論だけ言えば、この前に話した件は消滅した・・・」
「では、再度会っていただけると?」
何と言っても無収入が続いては生きていけないから、こんな際はある程度の妥協も必要なのだ(あくまで「ある程度」だが)
「ただしこの前訊いた通り、どんな環境か現場を見せて貰ってから判断する、と言う約束であれば・・・だけど」
「それは勿論、お約束しますよ。ただし・・・そうするからには、あくまで「やる」という前提でなければ困りますが」
「無論、見学に行くわけじゃないから」
という流れで再びC社のあのB氏が来名して、前回と違い今度は現場近くで会う事になった。
「まずは前回の経緯から、説明させて貰います・・・」
と前置きした、太ったB氏が話をはじめた。
「前回、にゃべさんの後で、もう1人の人と面接を行いました。この人は、Kさんのところとは別のルートから紹介された人でしたが、どんな人かと言えばまだ20代前半と若く、技術的にも経験からもにゃべさんよりは遥かに下の人でした。
では何故、私がこの人を選んだのかと言えば、彼の若さ素直さと元気の良さというか、前向きな姿勢を高く評価したからです。勿論、技術的ににゃべさんよりは下とは言いましたが、その方面の専門学校も出ていてそれなりの下地はあるし、業務経験も短いながらまったくの素人というわけではなく、現場の環境に慣れれば充分に対応していけるだろう、と判断したのです・・・」
と、太ったB氏はコップの水を煽った。
「そして前向きな姿勢で、質問に対する答え方なんかも素晴らしかった。客先の受けと、これからの彼の将来性に期待して、いわば先物買いをしたつもりだったわけですが・・・しかし・・・お客さんは、やっぱりシビアでした。
『返事ばかりは良いが、技術の向上が遅い』
と言うクレームが出て、早くも1週間後に
『もっとキャリアがあって、安心して業務を任せられる人材に変えろ』
という要求が来たのです・・・」
「ふむ・・・」
「それで、前回はあんな風な事でご迷惑をおかけしましたが、まだやっていただける意思があれば、勝手ながら改めてお願いしたいと・・・」
「・・・」
「いかがでしょう?」
「そうですな・・・まあ、前回の経緯云々はともかくとして、どんな業務なのか実際に現場の環境を見た上で、判断したいと思いますが・・・」
「そのつもりで、Kさんにもお話していました・・・では早速ですが、これから現場にご案内しましょう」
と、例のバカでかいばかりの無機的なビルに案内され、現場のリーダーから説明を受ける運びとなる。
現場リーダーは、非常に大人しそうな好人物であった。が、説明中も終始横にくっついて歩いていた、例の太った営業部長がリーダーに説教ばかり垂れていたから、関係のないワタクシまでが
(ここで働く事になったら、こんな調子で年中このオッサンに、ブツクサ言われ続けなアカンのか・・・)
と、早くもウンザリした気分になって来たのは否めない。
それでも、仕事そのものが魅力的に感じられる内容であればまだしも、いかに「docomoの『A』という巨大システム」と力説されたところで、基本的な業務環境の構築などは終わっているから、後はツール化されたものを使って日々の管理業務が主体であるのは明らかだった。
すでに完全に出来上がったシステムであり、技術者として吸収出来そうなクリエイティブな部分は殆ど期待出来ない、というところが実情だった。
(これは・・・楽そうだが、あまり面白味はなさそうだ・・・)
というのが、偽らざる感想だ。
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