2004/04/15

CD選びの難しさ


 Classicに限らずどんな音楽の演奏にせよ、或いは芝居にせよナマに勝るものはないのでしょうが、なにせナマで触れるにはタイミングや資金など様々な要素が必要となって来るだけに、そうそうチャンスに恵まれる訳ではないのが一般的な日常といえるでしょう。

「所詮CDやDVDでは、ナマの臨場感は味わえないよ」

などといった意見も良く耳にしますが、これらの場合は好きな時に自分のペースで聴けるとか、周囲の雑音に気を取られることなく一人で静かに観賞出来るなどの利点もあります。ところが実はClassic音楽の楽しみにおいて、最も厄介なのがこの「CD選び」であり、まことにもってこれほど難しいものはないといっても過言ではない。ご存じの通り他の音楽ジャンルとは違い、指揮者や演奏者によって同じ曲とは思えないくらいに、とてつもなく違ったものになってしまう事すら珍しくないのがClassic音楽の特徴であす。

実際に名曲と言われる曲やお気に入りのハズの曲でも、下手な演奏や好みに合わないような演奏を聴いてしまうと、それが長い間(甚だしい場合は「一生に渡って」という可能性も充分に考えられる)トラウマとして残ってしまい、その曲の真価を正しく評価する事が出来ずに終わってしまったり、忘れてしまうくらいにずっと後になってから蒙を啓かれ、後悔に地団駄を踏むというケースは誰しも経験していると思われます。それだけに「CD選び」には、一層の慎重さを要するところです。

いかに有名指揮者やお気に入りの指揮者とはいえ、あくまで演奏は「生モノ」であるからには、たとえ同じ指揮者と同じオーケストラとのコンビの演奏にせよ、その時々の指揮者のテンションや演奏者の調子などといった当事者以外には窺い知れぬ諸々の要素によって大きく様変わりします。その結果が、単純に「当たり」、「外れ」という次元から、癖や特徴などの嗜好から見て天地ほどの違いが感じられたりもする事は、過去に沢山のCDを聴きこなして来たリスナーなら、先刻ご承知の事でしょう。

実際、CDというのは買ってきて聴いてみるまではわからない宝クジのようなもので、書物などのように立ち読みをして吟味するというわけにもいかないから、まずはCDに記載されている指揮者や演奏者の名を見て判断するしかありません。そのため過去に何百枚と買って来ているようなベテランでも、いつまで経っても「外れ」ディスクを買うハメになったりするくらいで、ましてや初心者が最初から「当たりディスク」を選ぼうという方がドダイ無理な要求であるといえます。

ワタクシ自身を例に挙げて言えば、聴き始めたまだ若い頃に「外れディスク」を続けざまに買ってしまい、貴重な金をドブに捨てたような苦い経験を積みながら少しずつ指揮者や演奏家、或いはオーケストラの傾向をアタマに染み込ませて行き、その中から勘と経験を頼りに自分好みのものを地道に見つけ出して行く方法に収斂してきていますが、これ以外には未だに効果的な方法というものに行き着いてはいません。ところが得てして初心者に限って、知識が少ない分だけ「ネームバリュー」や「値段」に拘るところがあって、とにもかくにも名の通った指揮者や演奏者のものや「高いから、いいものに違いないだろう・・・」と無理をして高いものを買う傾向があるようですが、ワタクシの経験上ではそういった事は殆んど関係がないように思えます。

ショップに並んでいる1000円程度の廉価版にも案外の掘り出し物や、充分鑑賞に耐えうるものは沢山ありますし、逆に3000円以上もするような高価な部類にもロクデモないものもゴロゴロあるわけで、こうした事から考えても高価なものやネームバリューをありがたがって選ぶのは、なんの根拠もないでしょう。

ワタクシの持論では、ビギナーのうちから(経済的に余裕がある人は別として)無理をして高いものに手を出す必要は毛頭なく、廉価版でともかく数をこなして知識と勘所を積み上げていくに尽きると言えるでしょう。そして理想を言うなら、同じ曲のディスクを指揮者や演奏者を違えて最低23種類を購入し聴き比べてみる。3種類購入すれば三通りの「解釈」があり、それぞれが随分と印象が違ったものである事が身をもって実感できるとともに

(この指揮者のこの部分は、もっとこうした方がいいと思うんだがな~)

というように自分の好みを演奏家に求めるような、いわば音楽に対する自分なりの「解釈」にまで、一歩踏み込んだ聴き方が生まれて来る事になるわけです。そこで次には三枚の中で特に気に入ったのがあれば、さらにその指揮者の別のディスクを聴き比べてみると、同じ指揮者でも収録年代によって随分と曲に対する解釈が変わっていたり、演奏者との相性の良し悪しなどが見えてくるケースもあって一段と面白くなったりします。或いは最初の三枚がどれもイマイチだと思ったら、さらに別の指揮者や演奏者のものを更に聴き比べてみると、同じ演奏者が指揮者によって見違えるような演奏をしていたり、といった事にも行き当たったりします。

このように、Classic音楽を究めるというのはまこと奥の深いもので、こうして何度も駄作を買わされるのは、その時は随分と無駄に思えて腹立たしいものですが、実は誰しもこうした経験の繰り返しがいい授業料になって先々において、これらの経験の積み重ねが勘を働かせるという事もあります。要するにCD選びにおいて、あまり効率の良い道はないというのがワタクシの結論です。

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