2004/04/14

モーツァルト クラリネット五重奏曲(第3楽章)




 「ブラームスのクラリネット五重奏曲の、あの晩秋の憂愁と諦念の趣きは実に感動的で、作者一代の傑作のひとつであるばかりでなく、十九世紀後半の室内楽の白眉に数えられるのにふさわしい。けれどもそのあとで、モーツァルトの五重奏曲を想うと『神のようなモーツァルト』という言葉が、つい口元まで出かかってしまう。
何という生き生きした動きと深い静けさとの不思議な結びつきが、ここにはあることだろう。動いているけれども静かであり、静穏のなかに無限の細やかな動きが展開されている。一つ一つのフレーズは、まずは十八世紀のごく普通のイディオムで語られているのだが、何ともいえぬ気品があり、雅致がある。あすこ(ブラームス)には人間の運命に対する省察と諦観があったが、ここ(モーツァルト)には自由がある。

かわいそうなブラームス!

これは吉田秀和の文章だが、確かに今、あまたあるモーツァルトの作品の中で「神のようなモーツァルト」と形容したくなるのはこの曲だ。考えてみれば、モーツァルトが創作したジャンルの中で最も充実している弦楽四重奏に、晩年モーツァルトが最も愛した楽器クラリネットが絡んでゆくこの曲が素晴らしいのは当然かも知れない。この曲は死の2年前、17899月に完成し、クラリネットの名手にしてフリーメーソンの盟友シュタードラーに捧げられた。

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