「あんまり、人をバカにするんじゃないよ。昨日の電話で、自分が言った事くらい憶えてないのかい。Tは来ないかと確認したら何と言った?
Tは来ませんと、ハッキリ言ったのは誰だった?」
「私はそう訊いてました・・・」
「まったく、デタラメばっかりだな・・・全部Tの指示で、動いてたってことか・・・」
追い詰められたドブネズミのように、怯えたような目をキョロキョロさせながらウワゴトのように同じセリフを繰り返すばかりのMは、どう見てもTの傀儡でしかなかった。腹立ちは依然収まらないとはいえ、これ以上問い詰めるのもアホらしくなって来た。
一緒に面接を受けに来たもう一人の知らない人物は、当然の事ながら思わぬ成り行きにア然ボー然の態で、置き物のように固まったまま時折、怯えた目でチラチラと成り行きを見守るばかりである。
「前にも言ったように、アンタんとこのようなサギ会社とは、もう金輪際付き合いきれんわ。今日の話も含め、総て白紙にしてもらおう。今後、二度と電話して来ないように」
と、最後にひと睨みしてやると
「わかりました・・・」
という蚊の鳴くようなMの声である。
ところがところが・・・どうやらコイツはアタマか精神状態に異常を来たしているらしい。実に驚いた事に、その怒りも冷めやらぬ翌日早々
≪○案件情報
長野県某。元請け:大手商社U(本社・東京)
東京U商事での面接交通費、および引っ越しに要する費用その他の経費は、総てU商事が実費にて負担します。
興味があれば、是非ご一報ください。 連絡をお待ちいたしております。
ST社・Mより≫
という、わけのわからないメールを送って来たのには呆れてしまった。
言うまでもなくそのメールは速攻で削除したまますっかり忘れていると、Mから電話が入った。
「ST社のMですけど・・・」
「・・・何の用か?」
「先程メールを送ったんですが、ご覧いただけましたでしょうか?」
「アンタは、日本語がわからんのかい。二度と電話してくるなと、何度も言ったろーが!」
「ともかく、話しだけでも訊いて下さいよ・・・」
「・・・」
「もしもし・・・」
「早く話したらどうだ・・・その後で、こっちも言わせてもらうからな」
「はい。え~っと、メールで送りました件ですが、東京の大手商社U社系列のUC社の案件でして、興味がおありでしたら東京本社での面接と引っ越しに掛かる費用などは、総てUC社の方で負担してくれるという事で・・・もし興味があるという事であれば、面接日の設定など進めていきたいと思いますが・・・いかがでしょうか・・・?」
「いかがでしょうかって・・・アンタくらい人の話を理解しないアホは見たことないな。この前言った事を、もう忘れたのか?」
「では、やる気がないと・・・?」
「訊くまでもないだろ。もう二度と話す事もないだろうから、この際言っておくが、アンタ自分でやってる事がいかにデタラメか、少しは考えた事があるのかい?」
「は?
デタラメとはどういう事でしょう?」
「この前の事を、もう忘れたのか?
どうも、アンタは健妄症みたいだな。この前のアンタが、いかにデタラメ尽くしで人をペテンにかけたかを思い出させてやろうか」
「はあ・・・」
「そもそも、最初に大手メーカーのHC社の課長とやらの人物と知り合いで、直接頼まれた案件とやらの触れ込みで、オファーを持ってきたのがアンタだ。 ところが実際に出向いてみると、HC社などとはまったく関係のない全然訊いた事もない会社に連れて行く。さらに全然脈絡のない話を始めて、出し抜けに『東京に行けるか?』などと訊かれ、顔も見たくないからとあれほど念押しして確認した挙句、絶対に来ないと大見得を切っていたTはヌケヌケと同席しているわ・・・そんなペテンだらけの上、まったく中身のない面接をした挙句にはなんの返事も寄越さん。それで、体裁悪くて何とも言ってこんのかとセイセイしていたら、今度はその件もうやむやにしたまま『長野へ行かないか?』とメールを送りつけてくる。
こりゃとてもマトモな人間の言動とは思われんというのが常識的な判断だがな。こんな分裂病みたいな支離滅裂なヤツに、こうして論理立てて説明する事自体まったく無意味なんだろうがね・・・」
「確かに、仰るとおり色々とこちらのサイドの段取りに不備がありまして、何度か不愉快な目に合わせてしまった事はお詫びしますが・・・ただ今回の件は大手商社系列のUC社が経費は全部持っても、是非長野へ行って欲しい人材だと・・・ネットワーク関係の仕事でかなりの部分を任されるという話ですから、必ず将来のためになると思いますが・・・」
「これ以上、与太話に付き合うつもりはまったくないが、リスクを背負って長野くんだりまで行けというからには、相当な条件を用意してるんだろうな?」
「ウチとしては、xxくらいは出せます!」
と提示してきた金額は、話にならないような低いものであった。
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