「少しは真面目な話しかと思ったが・・・もう二度と電話しないで欲しいわ」
「という事は、この金額ではやらないと・・・」
「そんなの、言うまでもない。この際ハッキリ言っておくが、こっちは業界の相場くらいはわかっているんだ。UC社で長野出張なんてので、そんなに低いって事は要するに・・・」
「いえ、ウチは常識範囲でしか抜いてませんけど・・・」
「要するにだね・・・この際ハッキリ言わせて貰うと、アンタんとこは木の枝で言うなら枝葉の末節もいいとこなわけよ・・・上位会社から利用されてるだけのね。だからいつもいいように利用され続けて、話が途中でおかしくなるわけでしょう。この前のHC社云々の話でもそうだったが、要するに大きいところからテイよく利用されてるだけで、他がうまくいかんかった場合の保険というか、まあスペアみたいな認識でね。どう見ても、マトモに相手にされてるとは思えないよ。そんなところと付き合うつもりは毛頭ないし、ましてやリスクを背負って長野くんだりまで行くほど酔狂ではないんだがね・・・」
「わかりました・・・では、もう私の方から連絡をする事はないでしょう・・・」
ところが数日後、今度はやはり前から何度かオファーを持ちかけてきていたコンサルタントのT氏から、同じこの長野の案件が持ち込まれてきたのだった。
この人物もST社の連中ほど酷くはないにせよ、これまで何度もオファーを持ちかけてきては、いつもウヤムヤのままナシノツブテを決め込む事が多かっただけにかなりの不信感を持っていた。そうして、またしても相手の強引なペースで話に乗せられ、ともかく面接までは進めてもらう事になったのだったが、またしても返答が帰ってくる事はなかった。
こうして「長野案件」を巡っては散々に振り回された挙句、何の得るところもないまま不快な思いを重ねる結果に終わった。
世の中には鈍感というか無神経というか、要するに信じ難いほどに頭の神経の鈍い御仁が沢山居るものだわい、とはかねがね思ってはいたが
(これほどウルトラ級のアホには、さすがに未だかつてお目にかかったことがないな・・・)
と、最早怒りを通り越して呆れ返ってしまったのが、よもやもうあるまいと思っていたST社営業Bからの電話であった。
「ST社のMですが・・・」
「今、オレがなに考えてるかわかるか?
日本語の通じない三流営業の携帯番号を、着信拒否に入れておくのを忘れた後悔さ・・・」
「いきなり変なこと言わないで下さい・・・」
最早コイツに対してだけは、敬語や常識などの出る幕はない。
「まあ私も余計な事を言うと叱られるので、今日は必要な事だけを言います。これを断られたら、もう電話しませんよ」
「これで最後ってのが、一体何度あることやら・・・」
「業務はCiscoルータの設定・導入試験。勤務地は東京・名古屋・大阪の三箇所を移動しながら行う。一都市当たり約2ヶ月~3ヶ月。なお東京、大阪での業務中は出張扱いとなり、滞在中のビジネスホテル宿泊費は総て実費にて支給。 また最初に東京本社で4週間の合同研修がありますが、その間の宿泊費用も総て先方負担となります・・・こんな内容ですが・・・」
ST社の持ち込む案件など、毛頭受ける気持ちはなかったが・・・幸か不幸か、喉から手が出るくらいに興味のある分野でありながら、これまでまったく縁が薄かったのがCiscoの実機経験だった。
「なるほど・・・内容的には悪くはないが、これまでの経緯からすると間に入っている胡散臭い会社が、まったく信用出来んから困ったな・・・」
「またあれこれ言ってる間に、話が拗れるといけませんので必要な事だけを話します。前回、にゃべさんの断られた「長野案件」を持ち込んできたUC社からの案件で
『長野くんだりまで行くつもりはない!』
というにゃべさんの言葉をそのまま伝えましたところ、躍起になって探されたのがこの件だそうで・・・Cisco認定資格を持つにゃべさんに、先方さんが白羽の矢を立てたわけで・・・それで、この前には私もああ言われた事は決して忘れてはいませんが、内容が内容だけにこれが最後と思って電話した訳なのです」
「・・・」
「それで・・・もし興味がおありならば、大変に急なんですが今日の正午に面接がありますのでお越しください」
「なんで、そんなに急なんだ?」
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