先日、久しぶりで実家へ帰ると、Lクラブの役員を務めるオヤジから
「L主宰の催しだが・・・」
と、パンフと1枚のチケットを渡された。
まったく興味もなかったがお義理で見てみれば、地元出身の有名作家の作品をオペラ化した催しである。
(こんな二流の出し物なんぞに興味は・・・)
と返しかけたチケットを持つ手が宙で制止したのは、パンフのある部分に目が留まったせいであった。
そこには
オペラ『xxxxx』
主演:高嶋千春(ソプラノ歌手)
と書いてあり、裏にはあの懐かしい学友のプロフィールが載っていた。
《ドイツ国立デトモント音楽院、イタリア王立ナントカカントカ音楽院に留学し、現在はドイツで活躍中。今回は、久しぶりに生まれ故郷のA市に帰っての特別公演です》
そして現在のものとオボシキ、外人のような派手なパーマ姿の千春が、ニッコリと微笑んでいる写真が載ってる。
元々、彼女は初めて見た中学時代から白人のような抜けるような色の白さが際立っており、ふっくらとした非常に女らしい色気がプンプン漂っていたイカス女だったが、写真で見る限りやはり今の容色はあの大人びていた学生時代とは比較にならぬほど変身を遂げ、外国にいるせいか職業柄かちょっとケバイ感じになっていた。
オペラ歌手として、ヨーロッパで活躍しているという話は何度か風の噂程度には耳にしていたものの、写真とはいえこうして懐かしい姿に接する事で、やはりある種の感慨が湧き上がった。
「オマエの同級生だろ?
偉く出世したもんだな」
田舎モノのサガとして「ヨーロッパ留学」と訊いただけで、無条件に「出世した」と思ってしまうところがあり、実際の活躍ぶりはどうにも評価のしようがないが、それでもオペラの本場ヨーロッパで喰ってるというだけでも、それなりの価値があるとは言えた。
普段から、女の容姿は滅多に誉める事のない母も
「この写真で見る限りだけど、なかなか美人じゃないの・・・」
と珍しく誉めていたが・・・
L役員のオヤジはオペラなどには関心がないだけに、5000円とかふんだくられたのがよほど業腹だったらしく
「こんなものが5000円も・・・」
とブツクサ言ってはいたが、そのオヤジからタダでチケットを入手した。
結局オペラを、そしてクラシックを愛するが故と、若き日の追憶の板挟みで葛藤した挙句、遂に「ソプラノ歌手・千春」の生公演を見る決断が付かず、千載一遇のチャンスをみすみす見送ってしまった。
Classic音楽には17の時に初めて接して以来、今でも数ある趣味の中でも最も大切な、そして特別な宝物とでもいえるようなものなのだ。あの時の出し物は凡そ下らないローカル向けのオペラに、出演がアマチュアの地元合唱団だからまだ良かったといえる。が、そういったシチュエーションで
《オペラの本場ドイツ、イタリア等で活躍するオペラ歌手の友人》
を聴きたくはなかったし、逆にしかるべきシチュエーションでモーツァルトやらヴェルディ、はたまたプッチーニを歌うソプラノ歌手・千春を聴くとなれば、やはりずっと聴き慣れた世界に冠たるプリマと比較してしまうことになってしまう怖さは如何ともしがたく、それでは相手に酷なのである。
こうして「彼女に、(万が一にも)幻滅する事があってはやりきれない。不要な危険な冒険を冒さず、良き思い出は大切にしていよう」という内なる声と「オペラ歌手として凱旋した彼女の晴れ姿を拝みたい」という欲求がせめぎ合い、ジレンマと闘った末に、せっかくもらったチケットを無駄にすることに (*´ー`) フッ
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