2004/04/06

アリ地獄(詐欺師再びpart1)

 元の住居に戻った7月半ばからは、名古屋の富士通某社へ通って資料作成を進める事になった。

ここに至る実情はかなり変則的ではあるが、外目には決った時間に自宅から会社までの通勤だから、普通の勤め人と変わる所がない。外部委託者という身分となるF社では、空いている会議室を借りて資料作りに専念。Q市で分担している他のスタッフとはリモートで連携を取りながら、期日に指定された9月末まででどうにか資料が仕上がりそうな見通しである。

この間は朝9時から夕方6時までの勤務で、進捗管理は総て任されていたから残業も滅多にない規則正しい勤務スケジュールが守れたため、空いた時間を利用してネットで求職活動を行う。就職サイトからは何通かのスカウトメールが届き始め、その中から幾つかの面接をこなしてきたものの、今ひとつ気に入ったものがないままに9月を迎えた。

F社との契約は資料作成の期限である9月末までだから、いよいよ本腰を入れて次の現場を探さないといけないというタイミングの9月に入り、三重県にある某社からオファーが入り、現地までの足代(近鉄特急)を負担してもらえるという事で、代休を取り現地へ赴いた。

10時に設定された面接そのものは午前中で終わろうから、午後からは観光に当てる肚であった。社名は何度か訊いた事はあったが、思っていた以上に大きな会社のようで、地元ではかなり名が知られていたらしい。面接会場に当てられた応接室には、5人もの面接官が雁首を並べいたのにはチト面食らった。通常では面接官は23人くらいで5人というのはあまり記憶にない。

面接が始まると、最初に型通り職歴をざっと説明しその後で質疑応答に入るのだが、何故か経歴の最後のところであるT社の件ばかりにやたらと拘り、一点集中のような執拗さで質問の矢を浴びせ掛けてくるのだけには参った。直近のキャリアであるにしても、あまりの執拗さに些かの不審を抱きながらも、あの複雑な一連の経過を第三者に誤解を招かぬよう説明するのは無理があると考え、適当に誤魔化しながら(とはいえ話として、かなりの部分で納得できるような理屈を構築しながら)説明を試みていったのだったが・・・

 「なるほど。おおよその経緯は、わかりましたが・・・」

「T社の件は導入支援で短期で終わりましたが・・・やけにそこに拘るには、なんらかの理由があるという事ですか?」

と問い掛けると

「お察しの通りですが・・・という事は今の資料作りは今月一杯で終わり、F社さんとの契約は切れると。では、単刀直入に申し上げますが・・・」

と元々目付きの悪い悪代官のような顔をした、リーダー格の人物が身を乗り出してきた。

10月からは当社との契約で、再度T社の現場に戻ってやっていただけないでしょうか?」

常識的には予想外ではありながらも、一方では話の途中からは凡その予測が付いていた、なんともありがたくない提案が持ち出されて来た。勿論、その話は即座に断った事は言うまでもないが、先方にとっては是が非でも決めてしまいたいらしく、目つきの悪い責任者風の人物(相手の5人のうち、終始喋っていたのはこの人物だけだった)が最後に

「その現場に戻るのは、なにか不都合だとか・・・?
失礼ですが、なにか契約上の問題(トラブル)でもあったんですか?」

とまで突っ込まれるに至り

(これでは遥々、三重県までやってきた甲斐がないな・・・)

と考え、デリケートなところは暈しながら相当な事実までを話して聞かせ、納得してもらった。

「わかりました・・・そういう事情であれば、その件はもうここまでにしましょう・・・名古屋では他にも、官庁関係の仕事なども幾つかあると思いますので、改めて検討した上でご連絡します」

といってこの面接を終えたが、その後は何の連絡もないところを見ても、どうやら最初からお目当てはT社の交代要員としてだった事は明らかだ。

ところがこれは、その後の「T社極秘プロジェクト狂騒曲」のほんの序奏に過ぎなかった・・・

その後、Webの就職サイトを始め、知り合いの会社や過去に勤務実績のある会社など、実に様々なルートから例のT社の件(以下「Aプロジェクト」と記述)のオファーが、次々に舞い込んできたのである。8月から年末までの間に、これらのサイトから20件以上のスカウトメールが届いたが、そのうちわかっているだけでも10件近くがAプロジェクトのオファーで、他にも具体的には触れておらず

「ご紹介したい案件があります。一度ご来社下さい!」

といったものも含めれば、10件は優に超えていた事であろう。これらに対しては

「Aプロジェクトに従事の意思なし」

とメールの返信で片っ端から断っていったが、中には

「それ以外の他の仕事も幾つかありますので、ともかく一度ご来社願いたい」

などと調子よく誘われ、訪問すると口から出て来るのはその件ばかりだったり、或いはもっと悪質なのは

「まったくの別件ですので、是非ともお越しください!」

とまで言っておきながら

「実はこの前に電話でお話しました件は、他で決ってしまいましてね・・・申し訳ないのですが・・・それで是非とも、例のAプロジェクトの件を再考いただくというわけには・・・」

と最初から計画的としか思えないような、狡猾な手を使ってくる会社も少なくはなかった。

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