2004/04/19

危機一髪


 クラス一の美少女・美佳にすっかりメロメロとなったマチャ。が、肝心の美佳の方は、マチャにはさしたる関心がないのは明らかで、美佳が思いを寄せる相手は誰あろう、校内一の人気者であるにゃべである事は、常日頃の態度から誰の目にも明らかだった。

そうした状況の中、2年生最大のイベントとなるキャンプを迎えることとなり、見知らぬ土地の空の下でこの美男美女のカップルが、めでたく結ばれることになるのか、と好奇心旺盛な輩たちは固唾を飲んで見守っていたが、結局何の異変もないままに、23日のキャンプは呆気なく終わってしまった。

勿論、この間もマチャの美佳に対する熱は、醒めるどころか日一日と募るばかりの様子で、席替え後に再び美佳の前になったにゃべの傍にやってきては、例によって美佳を意識しまくっての一人相撲が続き、相変わらず皆から冷やかしの対象とされていた。

当初は、なかなか刺激的だったこの冷やかしのお遊びも、1ヶ月も経つとさすがにつまらなくなってきた。

「なんか全然進展がねーから、面白くなくなってきたな・・・」

という、にゃべの意見に同意してみせたのはマサだ。仲間内では最も気の短い男だけに、遂に痺れを切らしてトンデモない暴挙に疾ってしまった。

「オイ、ナカジョー!
オマエはマサユキの事、どう思ってんだよ?」

「えっ?
なに、それ?
どういう意味よ・・・?」

「オイオイ、とぼけるなよな・・・マサユキは、オマエに気があるのはわかってるんだろーが」

「え~っ!
何バカいってんのよー」

とかなんとか惚けていた美佳だったが、結局

「別に、なんとも思ってないけど・・・それって、アンタたちが勝手に煽ってるだけでしょ」

と、あっさりかわされてしまった。

美佳にアッサリとあしらわれた腹いせからか、持ち前の悪戯心を起こしたマサ。マチャの不在時を狙い、教室の黒板に

マチャ失恋! (TT)

と大書してしまったから、たまらない。何も知らず天下泰平で現れたマチャは、すっかりみなの爆笑を買い、哀れなピエロと化してしまった (-o-)ノ ┫オリャ

 「マサー、テメ~か!
こんなクダラン事を書きやがったヤツは。
こんなバカな真似をするヤツは、テメーしかいねーよな?」

日頃は、あまり怒ったことのなかったマチャも、これには遂に堪忍袋の緒を切って本気でマサに襲い掛かかった。

「元ガキ大将」本気のド迫力!

表情の引き攣りを抑えつつ、かろうじて薄笑い浮かべていたものの、マチャの万力でヘッドロック(頭部絞め)をかけられたマサの顔面はみるみる内に真っ赤に充血していき、ようやくにして開放された時のマサは哀れ涙目となっていた。

「チクショウー!
オイ、マサユキー、なんでオレばかり目の敵にするんだよー。卑怯者が」

腕力では太刀打ちできないマサが、マチャを罵った。

「最初から、テメーが一番煽ってたんだろーが。俺の目も節穴じゃねーんだぞ、コラ!
オレをナメんじゃねーぞ!」

と一喝するや、次にはイモに向かった。

「オイ、イモー!
オマエも、よくぞこれまでオレをバカにしてくれたなー」

と、イモにも同様にヘッドロックを見舞った。マサ同様、顔を真っ赤に充血させたイモだが、元々図体に似合わず温厚な性格だけに

「イテテテ・・・畜生め」

と大人しく苦笑いしながら無抵抗のまま。次のターゲットにされたシモッチは、最も身体が大きく力も強かっただけにしばらくは抵抗していたが、怒れるマチャのパワーに屈し、遂にヘッドロックをお見舞いされる。

「イテテテ。コイツ顔は笑っとるが、マジで絞めて来やがったぞ・・・」

とボヤキつつもマチャの気迫に圧倒されたか、大した抵抗もしなかった。

続くオグリは短気なケンカ屋だけに、あっさりとはマチャの手にかからず

「なんだテメーは、コノヤロー!
オレが何したってんだ・・・言ってみろよ、このー」

と、いきなり先制の張り手を見舞った事から、しばし火の出るような張り手合戦が展開され、みなア然として注目していた。両者意地で譲れぬ張り手合戦は、容赦なく何発も打たれ互いの頬が真っ赤になっていたが、最後にはさすが復讐の執念に勝るマチャに、強烈なヘッドロックをお見舞いされ

「イテーぞ、こらー!」

「どうだ!
まだ張り手合戦をやる気か?」

「もうええ加減、気が済んだろー」

 さすがのやんちゃなオグリも、マチャのパワーの前にお手上げの態で、残るムラカミは、温厚な性格だ。

「待て待て!
オレは、何にも言ってねーぞ。
なぁ、マチャよ・・・みんなしらけとるし、少し落ち着こうじゃねーか」

と、抵抗の構えを放棄し説得に回り始めたのは、さすがに賢いところだ。マチャの方も

「クソっ!
さすがに5人目ともなると、もう力が入らんくなってきやがった・・・まだ肝心の首魁が残っとるから、温存しとかんとな」

とか言いながら、やはりムラカミには一目置いているせいか、手を出さずに終わった。

そして最後に残ったのは・・・

「オーイ、にゃべ~」

と、マチャが物凄い形相(笑顔)で睨んできた  (/||| ̄▽)/ゲッ!!!

「オマエのために、力を残しといてやったぞ・・・ 黒幕は当然、オマエしかいねーよなー?」

「そうだ!
本当の黒幕は、コイツなんだぞー」

と狡猾なマサが八つ当たり気味にドサクサではやし立て、いよいよ絶体絶命・・・

(コイツめ・・・どの程度、本気でやるつもりか?)

と腹を決めかねていると、土壇場のタイミングで思わぬ方向から、よく通る凛とした声が・・・

「アンタたちー、うるさいったら!
子供じゃあるまいし、いつまでバカやってんの?
マサユキも、もうそんだけ暴れたら充分でしょ?」

声の主は、意外にも女子委員長の香。マチャの常軌を逸した狼藉に、眉を顰めてヒソヒソとやりだした女子生徒らの空気を察してか、或いは身の置き所のない美佳の心中を慮ってかは知るべくもない。

が、普段はこのように出張って来ることはおろか、殆んど存在感のなかった香のひと声だけに、この効果は予想以上に絶大だった。

「うむむ・・・しかし」

「残りは、にゃべをやれば気が済むんなら、さっさと片付けたら?
みんなの迷惑だから、次からは校庭かどこか教室の外でやってよね?」

という香の毅然とした怒声に

「チッ!
仕方ねーな。
そろそろ腕が痺れてきたとこだし、この辺で勘弁しといてやるか・・・」

さすがの怒れるマチャも、女子リーダー香の威厳に気圧されたか、或いは改めて自らの暴走振りに照れ臭くなったか、負け惜しみのひと言を残しながらも案外、あっさりと矛を収めてしまった。

まさに、鶴のひと声!

思わぬ香の「援護」のおかげで、間一髪のところで命拾いし内心ホッと一息を吐くにゃべに、執念深いマチャがさり気なく寄って来くると

「オマエには、後で特別にたっぷりお見舞いしてやるぜ」

と周囲に聞こえないような小声ながら、しかしドスの聞いた声で脅しに来た。

「いらんいらん」

が、結局、この出来事を機に一層親しさを増していった ( ´艸`)ムププ

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