2004/04/12

神童と天才


 2年生になって、最初のテスト。1年生2学期の途中で大阪から転入後、2度のテストで2度ともトップを浚っていった天才ヒムロの存在感の前に、B学区生え抜きの中では最も期待の高いにゃべの存在感も、すっかり霞みがちとなっていた。

そんな状況で行われたテストであり、またいつもと同様にまったく勉強してこなかっただけに、今更トップであろうなどとは考えてもいなかった。

おそらくは誰しも、腹の中では

(どうせまた、あのヒムロとかいうウザイヤローがトップなんだろ・・・)

と思わずにはいられなかったとしても、不思議はない。それだけに、恭しく貼りだされた成績トップ10には、皆一様に目を擦ってみた後に快哉を上げ、周囲にあっという間に祝福の輪が出来た。

「さすがは、にゃべ。
ま、誰かさんはボチボチ、メッキの剥げる頃だったろうが。
これでまたにゃべが、トップを独占するんかな?」

などと、久々の神童復活を祝福する声が飛び交った。

自分の名がトップにある成績表を見るのが、なんだか気恥ずかしい年頃になっていただけに、人の少ない頃合を見計らってこっそりと見に行く。H・Y両学区の学生たちの名が抜けた成績表は、転校生のヒムロを除けばそっくり小学校時代に戻ったような顔ぶれである。

ヒムロ(2位)、香(3位)、ムラカミ(4位)、香里(5位)という、錚々たる名を従えての「1位 にゃべ」の文字を気分よく眺めていると、背後から

「よぉ!
オマエが、にゃべってんだろ?
今まで、名前だけは散々に訊かされとるが・・・」

聞き覚えのない関西弁の、癖の強そうな声が飛んできた。

「ああ、オマエが・・・有名なヒムロか・・・?」

周囲からライバル視される「神童」と「天才」の邂逅は、まさにこんなシーンであった。

初めて向き合った、この時のヒムロに対する第一印象は

(案外、小柄で貧弱なヤローだな・・・)

といったもので、ムラカミなどに見られるようなどこか他の連中とは違う、独特のオーラはあまり感じられず、案外どこにでもいそうな気さくな中学生という印象だ。

「有名?
やっぱ、そんなに悪名高いんかな、オレって。ぶははは」

とシニカルに唇を歪めた表情が、どこか人を小馬鹿にしたような感じである。

(どーも憎たらしいヤローだ)

などと思っていると

「ま、よろしく頼まー」

と捲くし立てると、さっさと消えてしまった。

「あのヤロー。まさか、自分が『B中』あたりの田舎学生に負けるなんて夢にも思ってなかったから、ショックがアリアリだったな」

などと、方々から扱き下ろしのセリフが聞こえて来たが、実際にはショックを受けた様子などは微塵も見受けられなかった。

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