2004/04/12

逆手(詐欺師再びpart7)

 (まったく腹の立つゴキ野郎だ・・・)

と憤懣やるかたない気持ちだったが、その一方で

Ciscoルータの設定・環境構築~東京で3週間研修後、三大都市への出張設定》

という滅多にないような魅力的な案件に、技術者としての血が騒がなかったといえば嘘になる。

(これだけの話をミスミス逃すってのも惜しいな・・・そうか・・・こうなったら直接、UCに持ちかけてみてはどうだろう・・・?)

と閃いた。言うまでもなく会社間での取引だから、会社の看板を持たぬ個人請負業者の働きかけなどは歯牙にもかけないのが普通だろうが、なにせ事情が事情だからそんな建前などは言ってはいられない。話のわかるような担当者ならなんとか交渉の余地もあるだろうし、先方にしてもクライアントからせっつかれれば面目を失いかねない窮地のはずだから満更望みがなくもないのでは、と自分の都合よいように解釈した。

が、いざ働きかける段になって、先方の担当者の名前もなにもかもがわからない事に気付いた。つい先、あれだけボロカスに扱き下ろした手前、今更ノコノコとBの携帯に電話をするのも憚られるため、念のためUC社のWebページを調べて営業課に電話をしてみたが

「そのようなお話には、まったく心当たりがありませんが・・・」  

という回答である。

(かくなる上は、背に腹は変えられん)

と気の進まぬままに、Bに電話をして訊き出すことにした。無論、本来ならこんな馬鹿げた真似はしないのだが、事が事であるのに加えBにはこれまで散々利用されてきたのだから、最後くらいはこちらから利用してやろうという、別の意味での意地のような気持ちがあったことも否めない。

とは言え、正面からマトモに訊いたのでは親切に教えるワケはないから、ここは一計を案じる事にした。

「もしもし・・にゃべだが・・・」

「はぁ・・・?」

当然ながら

(今更、何の用だ?)

といった不審な声音だったが、そんな事には構っていられないから考える間を与えず、一気に畳み込むことにした。

なにせ

Ciscoルータの設定・環境構築~東京で3週間研修後、三大都市への出張設定》

が掛かっているのである。

「さっきの件の確認だけど・・・本当は、東京の人間が来たなんてのはデッチアゲなんだろ?
どーせ、全部作り話だよな?」

 「何いってるんですか~、来ましたよ、ちゃんと・・・」

「どうもアンタの言う事は嘘ばかりで、信用出来んからなー。じゃあUC社の何という人が来たのか、名前を言ってみろよ・・・」

「UC社のFさんという人が来ましたが・・・」

「本当に、そんな人いるのかな?
じゃあ、どこの部署?」

「ちょっと待ってくださいよ・・・」

「そらみろ、やっぱデタラメなんだろう」

「デタラメなんかじゃないですって・・・今から名刺取って来るから、待っててくださいよ・・・・・」

というと、あれだけの悪人にしてはちゃんと対応しているらしい。

「えーっと・・・UCxx株式会社xx部F課長という人です。これでもまだ疑いますか?」

「なに?
UCxx株式会社だって?
UC社じゃないじゃないの・・・」

「といっても、UC社100%出資の子会社ですから・・・それはまあ、同じようなものですよ・・・」

向こうは「濡れ衣」を晴らすのに躍起で、どうやらこちらの意図はまったく疑っていないらしいから、アホが目覚める前に早めに決着を付けることにした。

「ホンマかいな・・・念のため確認してみるわ」

ここまでわかれば最早、コイツには永久に用はない。しかしここまで突っ込まれながら、よくぞ不審の念を抱かなかったものだ、とせせら笑う。これがあのタヌキ社長のTなら、こんな持ち掛け方ではまず真っ先に警戒して教えなかったろうから、こう簡単に事は運ばなかったであろうこの辺りが、さすがに悪党としての器の違いか。

さて、いよいよ電話をしようと携帯を取り上げてみて冷静になってみると、やはり到底相手にされそうもない気はするが、まあダメ元で当たって砕けてみるか。

「あ、もしもし・・・こちらは名古屋のにゃべと言う者で、本日は結果的にご迷惑をお掛けする事になりましたが、あれには込み入った事情がありましてね・・・」

「その話でしたら、私はST社さんと取引をしておりますので、ST社さんを通して行ってください」

予想された通り、まったく剣もホロロな口調だ。

「まあ聞いてください・・・実は、私も今朝になってわけがわからないまま、誰かの代理でとにかく来てくれと急に呼び出されましたのでしてね。予定を総て潰して、大急ぎで向かったのワケなので・・・少しくらいは、話を訊いていただけませんか?」

「趣旨は理解しましたが、後はやはりST社さんを通してくださらないと・・・」

 (バカか、オメ~は!
それが出来りゃ、誰がわざわざ高い電話代を使って東京まで電話するかよ、ドアホ!
ST社、ST社って、オマエの目は節穴か!)

と危うく喉元まで出掛かったところで、なんとか止め

「こりゃ話にならん石頭・・・サイナラー」

と、電話を切った。

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