「なるほど・・・確かに私も今の話を聞いていて、そういう方向性になるかなと思いましたよ・・・ところで資格というのは、情報系の国家資格とかでしょうか?」
「それよりも、寧ろベンダー資格がいいですね・・・ボクなら、Cisco認定資格がお勧めだな・・・クライアントに人気の資格だし、ベンダー資格といっても範囲が広くて汎用性も高いから、CCNAでも持っていればTCP/IPの基本的な知識はカバーしている、と認められますからね。まずはCCNA辺りから、狙ってみるのがいいんじゃないかと思いますよ」
「ベンダー資格というと、MicrosoftのMCPとかが有名じゃない?」
「MCPは、あんまり評価されませんね・・・CCNAの方がかなり難易度は上だし、ベンダー資格の中でもOracle認定と並んで、一番評価が高いですよ・・・難易度も、それなりに高いですが」
「ふむ・・・」
「勿論、CCNAを取ったらからといって、確実に仕事を紹介できるとは言い切れませんが、少なくとも今のままで経験も資格もないのでは、いつまで経っても厳しい状況は変わらないと思いますね。だったら、ともかく資格を並べて勝負するしかないでしょう・・・ボクも出来る限りは力になりますし、ある程度アドバイスも出来ると思います」
この若く親切なK氏のアドバイスが、結果的にはネットワーク技術者への大きな転機を齎す事になるのであった。K氏のアドバイスを受け
(ここで頑張らねば、将来はプーさんだ・・・)
と珍しく一念発起し、ようやくハラを据えて新しい分野に取り組む覚悟を固めた。なにせ自慢ではないが「超」の字が付くほどに、勉強や努力の嫌いなのである。
学生時代は高校・大学受験を含めても一度として勉強した記憶がなかったくらいで、筋金入りの怠け者という事にかけては人後に落ちないのだ。社会人になってからは、10年近くマスコミ業界で生きて来た中で、文章を書く事にかけては専ら勘とセンスを頼りとして来ていた。写真だけは専門的な知識が必要となるため、これだけは独学で勉強をして来たのが、それまでの人生で唯一の学習歴と言えた。
それくらい勉強が嫌いで、また免疫もなかったのが実情ではあったが、しかしながらIT分野にかけては、勘もヘッタクレもない。なにせ知識がない事には素人には、まったく手も足も出ない世界なのである。ましてや理系出身ならまだしも、文系出身で理系とはまったく無縁だったワタクシとしては、同世代の人々に比して10年以上も遅れて基本の「き」から始めなければならないという、甚だ厳し過ぎる現実が待ち受けていた。
事情を知らない第三者が見たら、まったくトチ狂ったとしか言いようがない方向違いの転職に映った事だろう。
(ここが、我が人生のターニングポイントになるのだ・・・時間が掛かろうとも、先のために腰を据えて取り組まなければ・・・)
まずは方向性を定めるため、書店に通いリサーチを繰り返した末、K氏の推奨したCisco認定にターゲットを定めた。K氏が勧めていたように専門書を読み漁るという方法もあるが、ド素人のワタクシにとってCiscoや日経BPの解説書や教科書は、あまりにも敷居が高過ぎた。
色々と試行錯誤を繰り返した挙句に、偶々ネットで見つけたのが認定資格向けにCiscoが出しているオフィシャルなWeb教材だった。ただし価格が25万円と高い上、サンプルのデモを見ると予想通り難解である。
(この教材を購入して、勉強するべきか・・・)
と考えていると、この前準備に使えそうな基礎教材が同時に販売されていた。
こちらは10万円だがキャンペーン価格で約5万となっており、デモを見るとTCP/IPなどネットワーキング技術の基礎が、わかりやすく解説されている。聞き慣れない難しい用語が頻出してくる世界だけに、専門書を読んでいても面白くなく集中できないが、Flashの動画を多用したこのWeb教材の解説は、素人目にも非常にわかりやすかったため迷わず購入する事にした。
発行されたIDにパスワードを設定しログインすると、WEB教材にアクセスできる仕組みである。ログインの有効期間は3ヶ月で、期間中は時間制限がなく利用できる。
この時、自宅のネット接続環境はエッジの10kb以下、なおかつ従量制という今となっては信じ難い劣悪な環境だっただけに、とてもこのWeb教材は使えない。その当時はまだフレッツISDNが出始めた頃で、格安のADSLが出る前の話である。NTTに工事費1万数千円を払い、ISDN回線をレンタルした。
初期のこの頃は、回線レンタル料と常時接続の環境を整えるのに月額8500円ほどが掛かり、失業中の身を圧迫していた。そうした事情が、或いは勉強に集中させる要因になったのかもしれない。
田舎の事で近所の目が煩いといった事情もあり、失職中も平日は朝9時前には家を出て、夕方まで外で時間を潰すのが習慣になっていた。折角、常時接続環境を整えながら、この長い日中の時間を外で過ごさなければならないのは、実に大きな痛手だった。
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