2004/04/09

初恋の女(中学生図鑑Part8)

 にゃべっち家はA市のほぼ中央部に位置しており、辺り一帯は商店街となっていたが、西の方へ足を伸ばすと小高い傾斜地の地形となった住宅街があり、その坂道をエッチラオッチラと登っていく途中には、地域の住民が初詣などに行く、有名な鶯山神社(仮称)などがあった。

地名には「鶯山町(仮称)」と付いていたが、山というよりはちょっと急な傾斜地、といった感じである。それでも、大人が自転車で登るのは難しいくらいの急勾配で、サッカーで鍛えたにゃべっちの脚力なら余裕で登る事が出来たが、脚力の自信のあるスポーツマン学生や若者以外は、自転車を押しながらヒイコラと登っていく事になる。

辺り一帯は、かつては郊外といった立地だったが、商店街あたりの土地の値上がったのと、中心部に空いたスペースがなくなってきた事から、この地がいつの間にやらニュータウンとして脚光を集め始め、都市からの転勤サラリーマン家庭の相次ぐ流入によって、いつの間にやら地域の中ではちょっとした高級住宅街と化しつつあった。

そんな坂を頂上まで上り詰めた高台に住む学生が『B小』や『B中』に通うためには、(体の小さい小学生には)山越えの難行を強いられるわけだが、今回紹介する「もろこ」こと香も、その一人であった。

この地に、A市の市立博物館と美術館が引っ越してきたのは、まだ数年ほど前の事であったが、どうやら香の家は今の博物館のすぐ裏にあったらしい。何故に、自分が香の実家の在り処を知ったか?

開発の進むこの一帯には、マンションが次々と建設され、この博物館のすぐ近くにもシャレた横文字名前の高層マンションが3つ纏めて建設された。数年前に一家を構えることになった姉ミーちゃんが、このマンションに入居した。直接的にはまったく無関係ではあったが、なんと姉ミーちゃんの家庭のすぐ傍に、我が初恋のお相手である香の実家が存在していたのである。

 数年前、この高台にようやく『K小学校』が設立され、ミーちゃんの子供らはその『K小学校』に通っているが、当時の坂越えでは『B小』まではおよそ30分、坂を降りきった立地にある『B中』までは約20分、といった道程であった。そして前回も触れた通り、この高台のニュータウンには都市からの転勤族が多く、A市のような地方都市まで転勤して来るくらいだから、当然の事として商社など支社網の発達した大手のサラリーマンが多いらしかった。

小学校に入学した時、マサとムラカミの2人だけが他の子どもとは違って輝いて見えたという話は以前にも書いたが、女子ではなんと言ってもこの香の存在感が際立っていた。

子供のころから整った容姿と、その学力にはさしもの悪友トリオも一目置くほどに、一貫して素晴らしくデキの良かった香ではあったが、惜しくも神童にゃべの陰に隠れたような形で、イマイチ脚光を浴びる機会に恵まれなかった。

しかし、中学生となると学力には益々磨きがかかり、最早にゃべと堂々肩を並べるところにまで来ていたと思われる(というよりは、相変わらず勉強しないにゃべの成績が落ち続けたために、必然的に現状維持の香と肩を並べたという見方の方が正しかった)

そして小学4年生以来、4年ぶりに同じクラスとなったこの年の1学期には、にゃべとともに順当に級長に選ばれたのが香であった事も、また言うまでもない。小柄なせいか、前の年の真紀や千春と比べると、まだまだ雰囲気的には少しばかり幼さが残るが、それでも当然ながら4年前に比べればセーラー服姿のよく似合うその姿は、グッと大人っぽさが出てきた感があった。

小学生時代から常にリーダー役を務めてきていただけに、かわいらしい中にもどこか一本芯の通ったようなところは真紀と共通する点だが、大らかで陽性だった真紀と比べると、おしとやか気だがどことなく地味な印象は相変わらずだ。

もっとも真紀の場合は、常に千春という天衣無縫な賑やかしが一緒にいたせいもあったろうが、香とのコンビとなると小学生時代から2度目ながら、相変わらずどこかぎこちなさが付いて廻るのは否めなかった。

香というパーソナリティが、成績も優秀な上にこれといった欠点も見当たらず性格も真面目な優等生と、何から何まで非のうちどころがなく整いすぎていただけに、逆にそれがこの年頃の子供としては面白みのなさに映ってしまい、皮肉にもその魅力を些か減じてしまっていたように思われた。

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