7歳年上の兄マッハは、年明けに大学受験を控えていた。
勉強嫌いで怠け者のにゃべっちと姉ミーちゃんとは違い、兄弟の中では唯一それなりに努力家と思われていたマッハだけに、両親は国立大への進学を信じて疑っていなかったらしい。
ところが、なぜか高校も2年生辺りになると成績が下降気味となり、徐々に様子がおかしくなってきていた。
例によって両親には、進路を明らかにすることないままに日が過ぎ、進路相談で学校を訪ねた母はまたもや、担任から寝耳に水の話を訊かされることとなった。
「『名大(名古屋大)』なんて、夢のまた夢だとさ。
本人の第1志望が『横浜ナントカ大学』と担任から訊かされた時は、驚いたのなんのって。
なんでまた、横浜なの?
おまけに、私立も東京の大学なんて・・・
先生が言うには
『横浜ナントカ』は、レベルが高くて合格は厳しい。
私大の方も微妙かなと・・・」
という事らしくて・・・
地元の『三重大』や『岐阜大』辺りなら、まだしも現実美味があると思いますが、いかがでしょう?」
なんて、私に訊かれてもどう答えたらよいものやら・・・」
地元では『名古屋大』は別格としても『金沢大』辺りに比べても格落ちの『三重大』や『岐阜大』であれば、決してレベルは高くはないとはいえ「国立大」だけに世間の評価は違う。
一方、名古屋の私大といえば『南山大』こそ最大のブランドだけに、県下でも名の通った大学と言えた。
が、マッハの東京志向は、かなり強かったらしい。
では、そんな目標に向かって頑張っていたのかといえば、それがどうも怪しい雲行きなのだった。
高校生のマッハと中学生の姉ミーちゃんは、このころ母屋とは別の離れに部屋を構えていた。
学校が終わり日も暮れなずむ頃になると、外から直結になっている離れへの外階段を登る女のシルエットが、何度か目撃された。
ミーちゃんから
「マッハのところに、ヘンな女が・・・」
といった証言も聞かれた。
昔堅気で頑固者のオヤジは、叩き上げのご多分に漏れずドケチで鳴らしただけに、この度重なるマッハの「背信」行為には、すっかり気分を害していた。
「そんな大事な事(進路)を親になんの相談もせんようなヤツのために、使えるような遊んどる金はないぞ。
地元に大学がないわけじゃなし、わざわざ要らん金を使って東京なんぞヘ行かんでもえーて。
東京なんかへ行ったって、どうせ遊んどるばっかりで、ろくな事にはならんわ!」
受験の年を迎え、小学生時代から8年間続けた陸上部も退部となった事で、時間的には余裕が出来たはずだったが、受験に対する諦観か余裕の表れからくる息抜きなのか、いずれにせよ部屋に女を連れ込む行為は、家族に対する違和感を残したのは確かであった。
0 件のコメント:
コメントを投稿