2003/10/09

心外(ラッキーボーイpart4)

 「そろそろ、取材にも一人で行って貰おうかしら」
 
と、M女史からお達しを受けたのは、一ヶ月が経とうという頃である。この頃には、既に持ち前の文章力と構成力で、メキメキと力を発揮しつつあった。

 「一人といっても、T社(雑誌発行元の広告代理店)の営業さんと同行になるけど、私とアナタが別々に取材をする事で、効率を上げたいのよ」

 という事で、勿論異存はない。そうして、広告代理店の営業と同行しての取材を数件こなした。

 そして、数日後・・・

取材から帰って記事を書いていると、M女史から声をかけられた。

 「ちょっと、お話したい事があるから・・・」

 と、近くの喫茶に連れて行かれる。いつもは誰よりもハキハキとしたこの女社長が、珍しく紅茶のスプーンを掻き回していて、なにか話を切り出し難そうだった。

 「ここでの仕事も、そろそろ1ヵ月になるけど・・・どうですか?」

 「どうって・・・まあ、そろそろ面白くなり始めた頃ですが・・・」

 「そう・・・」

 と、また紅茶を掻き回す。

 「それで、話ってのは?」

 痺れを切らして、タバコを蒸かし始めると

 「実はね・・・ちょっと言い難い事なんだけど・・・今日、T社から

 『にゃべっちさんを外して欲しい』

 と言われたの・・・

(
 ´Д)はぁ?

 「青天の霹靂」とは、まさにこのことだ。

 「向こうが言うには、アナタはどうもここの仕事には向いてないんじゃないか、と言うのよ・・・なにか心当たりがあるかしら?」

 「いや、全然・・・一体、何を根拠にそう言っているのか、ワケが分かりませんよ」

 「私も、ちょっとビックリしてしまって・・・元々、飲食店の取材やなんかだから、アナタはまだ若いけど、これまでにもかなり経験あることやし」

 「そりゃ、そーですよ。
 あんな広告屋の連中などよりは、よっぽど・・・」

 「なんでも、アナタとの取材に同行した或る人が、そう言ってるらしいの・・・」

 「・・・」

 「アナタは、これまで新聞やら雑誌の取材の経験は豊富だけど・・・あっちの方は比較的、自由に取材が出来て自由に書けるから、確かにアナタには向いているのだと思う。でも今回は、広告代理店が営業的に同行していて、お金を貰って取材して記事を書かなければいけない。言ってみれば、営業活動なのよ。その点が今までとの、大きな違い・・・かな」

 「それで・・・?」

 「向こうが言うには、どうもアナタの客先での態度が良くないって事らしいわ。 もっと端的に言えば、態度が大きいとか、そんなつまらない事らしいけど・・・」

 確かに若かったせいもあるし、このM女史が言うように当時は「取材をさせて貰う」とか「記事を書かせて貰う」などという気持ちは微塵もなく、寧ろ「取材してやる」、「雑誌で採り上げてやる」という気持ちが強かったのは事実だ。

 (オレの書いた記事で、客を増やすのだ)

 という矜持もあったし、これまではそれでよかった。

 が、今回、広告代理店の営業が絡んで云々という状況の変化に対しては正直、まったく意識していなかったのは事実だ。営業はT社の営業マンに任せて、自分は今まで通り取材して記事を書くだけだと割り切っていたし、営業的なサポート等は一切しなくてもいいというM女史との意識合わせも、最初に済んでいた。
 
「そうね・・・確かに私は、営業的な事をアナタにやってもらう必要はないみたいなことは言ったけど、それは別としてやっぱりこういう取材では、それなりの対応の仕方が必要になるから・・・」

 「態度がデカイと言ってるのは、一体誰です?
 実際に取材で、そんな事を言われてもいないし、どうも納得できかねますが?
 実際にはT社の連中が、なにか詰まらない事を根に持っての言いがかりとしか思えない・・・」

 「うん・・・もしかしたら、アナタの想像が当たってるかもしれない・・・私個人としては、本当はくだらない事だと思うわ。でも、こういう(広告料を貰っての)取材には、案外と煩い相手がいるのも事実なのよ」

 「話は解りました・・・私は何の取材であろうと、今まで通りの方針を変えるつもりはないし、そんなにヘイコラしてこの仕事をするつもりはない。それで三流雑誌の広告屋風情に、取材の仕方についてグダグダ言われるのなら、今日と言わずこの場限りで辞めさせてもらいましょう

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