2003/10/07

ヘンデル 組曲『水上の音楽』

●第1、第2組曲

●第3組曲


 「最も偉大なのはヘンデルである」  

と曰もうてヘンデル墓の前に額ずいたのは、誰あろう楽聖ベートーヴェンだった。  

このエピソードからだけでも、ヘンデルがいかに凄い人物かがわかろうというものだが、何故か日本においてはイマイチ地味な存在なのである。    

ヘンデルは、あの大バッハと同じ1685年のドイツの生まれで、少し先輩に当たるヴィヴァルディやコレルリ、或いはスカルラッティといったイタリアの作曲家の影響を受けたところからスタートしたが、徐々に独自の世界を確立していく。    

大作曲家と言われるような人の多くは、得てして波瀾万丈の生涯を送ったり、生まれながらに極貧だったり不遇のままに一生を終えたり、或いは先輩のヴィヴァルディのように晩年に才能が枯れてしまい、野垂れ死にしてしまったりといったケースはよく見られる。  
ところがヘンデルの場合は、20代半ばにして当時のハノーファー選帝侯から宮廷作曲家及び指揮者として招かれて以来、殆んど不遇な時代を経験せぬままに、70年余の生涯を独身で通したという、珍しいタイプの人であった。    

ハノーファー選帝侯に遣えていたヘンデルは、根っからの旅行好きで休暇の度にイタリアやイギリスへ旅していた。

そのうちに、滞在先のイギリスがすっかり気に入ってしまうと、勝手に休暇を延長して、そのまま居座ってしまった (^^)y-o

 そうこうするうちイギリスで、当時のアン女王にすっかり気に入られてしまったヘンデルは、王室からの手厚い庇護を受けることになった。  

この辺りを見ても音楽の才能もさることながら、かなり世渡り上手だったことが推測できる。  

ところが、これ幸いとばかりハノーファー侯からの帰国命令を無視しつづけ、イギリスに滞在を決め込んでいるうちに「アン女王の急死」 という、思いもよらぬ青天の霹靂に見舞われる。  

そればかりか「天網恢恢、疎にして漏らさず」という通り、アン女王の後継者が国内に見当たらず、なんとドイツから輸入する形で件のハノーファー選帝侯が、やってきたしまったではないか。  

裏切り者」ヘンデルにとっては、まさに悪夢を絵に描いたような最悪の展開だ。  

ところが、ヘンデルの世渡り上手の才がいかんなく発揮されるのは、ここからであった。  

新しくイギリス王となった元の主人が、テムズ河で舟遊びを催すと訊き付けたヘンデルは乾坤一擲の精魂を傾け、遂に生涯の代表作となる名作を創ってしまったのである。  

それが、有名な組曲『水上の音楽』である。  

この会心の作をお披露目すると、最初は激怒していたハノーファー選帝侯も、たちまちこの曲の虜となってしまった。  

こうして、ヘンデルは裏切りの罪を許されたばかりか、前にも増して王室から手厚く迎えられた、という話である。  

まさに芸は身を助けるという、なんとも出来すぎのような痛快なエピソードである(いくらかは、脚色されているらしいが)

200年後に発見された、プロイセン公使F.ボネットが記した「1717年の船遊びのメモ」要約によると

「最高の好天に恵まれた夕方8時頃、国王は貴婦人4人、伯爵1人、護衛1人を伴い御座船に乗り込み、その隣には約50人の楽士を乗せた船が随行した」  

「周囲には、臣下たちの沢山の御座船が取り囲み、更にはこの催しをひと目見て『水上の音楽』を少しでも聴こうと、無数のボートが川面に浮かんで居た」  

「国王は、1時間も掛かるこの曲を大変気に入り、計3回(食前(=往路)に2回、食後(=帰路)に1回)も演奏させ、御蔭でテムズ河畔チェルシーでの夕食は午前1時~3時、セント・ジェームズ宮殿に帰り着いたのは、午前4時半だった」  

更に  

「この日の楽士たちへの支払いだけで、150ポンドを費やした」  

とある。  
※ http://www7a.biglobe.ne.jp/~omesys/index.htm 引用

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ヘンデルの音楽に対するポリシーは「わかり易い、単純明快さ」と言われるが、確かに最初はややとっつき難い印象を受けるバッハなどに比べ、遥かに親しみのある聴きやすい音楽が特徴だ。  

長い生涯に渡り、宮廷音楽家を務めてきた影響からか、一種独特の浮世離れのした曲調から「天上の音楽」とも評されるのが、ヘンデルの音楽である。  

ところで、学校の音楽教科書に載っている肖像画などを見ると、ヘンデルにしてもバッハにしても、バロック時代の音楽家は当時流行っていたカールをした長髪の鬘と、今日の感覚ではやたらとゴテゴテした装飾の衣裳を纏っている。  

そのせいか、誰も彼もがどことはなしに厳しげな感じに見えてしまい、なんとなく敬遠されているような気がするが、実際の音楽を聴いてみると意外に親しみのある曲が多い。  
この『水上の音楽』は三部構成となっており、全体でちょうど1時間くらいのボリュームがあるが、ヘンデルの入門編としては地味な第三部はともかくとして、第一部・第二部までは是非とも聴いておきたい。

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