第3楽章「野の風景」
あたかもベートーヴェンの『田園』を髣髴とさせるような、伸びやかに平和なムードの漂うのが、この楽章である。
舞踏会場から逃れてきた芸術家。野の中で、彼は憧れの人を幻影の中に見る。音楽は、非常にロマンチックに展開していく。
冒頭、2人の羊飼いの牧童が角笛を吹きあう長閑なシーンから始まるが、曲の最後ではもはや遠くの羊飼いに近くの羊飼いの角笛が届かなくなったか、返ってくるのは雷鳴ばかりとなっている。大自然の雄大なスケールを織り交ぜながら、そこに佇む芸術家の目まぐるしく変化していく心理描写が、巧みに表現される。
このような実験的な試みが、保守的な一般聴衆には理解され難いと判断したベルリオーズは、曲をイメージしやすいように自ら台本を作り、初演からしばらくの間はプログラムの一部として配布していた。これが斬新極まる、この曲を聴く際の理解の助けとなった事は、言うまでもない。
この初演は聴衆に理解されず失敗に終わったものの、その演奏を聴いたパガニーニが彼の中に眠る才能に感激して、励ましの手紙を送った。その手紙は
「ベートーヴェンは死にました。
再び彼に命を与える者は、ベルリオーズその人より他にありません」
という言葉で始まるものであった。
さらに、パガニーニは手紙だけでなく「尊敬と好意の印」として、2万フランもの大金を添えました。
世上、パガニーニはお金に汚い吝嗇家と言われているくらいだから、いかにベルリオーズの芸術に感動したのかがよくわかる。彼が送った2万フランは、オペラの失敗で経済的苦境にあったベルリオーズを救い、さらに彼の励ましは新たな創作への意欲をかきたてた。
またこの曲を聴いて、いたく感銘を受けたリストが「交響詩」という新しいスタイルを確立したのも有名で、今日の「標題交響曲」への道標を付けた功績とともに、特筆されるべきである。
ベルリオーズは「色彩的オーケストレーションの達人」として有名だが、これだけ型破りで奇妙なまでの大作でありながらも、そうした台本を知らずに音楽を聴いているだけでも、充分に感銘を受けられるまでに内容的に充実しているところからも、その類稀なる才能は存分に窺い知る事が出来る。
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