当初の計画では、2週間ウィークリーマンションに滞在しながら全社を一週間以内に纏めてスケジューリングして、訪問を済ませる。そして2週目に二次面接、若しくはユーザー面接という段取りを頭に描いていた。ところが、安いマンスリーマンションの物件をネットで検索してみたものの「インターネット対応物件」となると、安くても1週間で3万5000円~4万円はかかる。これに加え、入居時の「クリーニング代」が2万ほど掛かってくるから、結局安いビジネスホテルに泊まるのと殆ど変わらないのである。
こうなると根が無精者だけに、色々と手続きの面倒なマンスリーよりは、ビジネスホテルに泊まった方がなにかと気楽でいいじゃないか、と安易に結論付けビジネスホテル滞在を決めた。
ホテルの予約を入れた後は、持って行くノートPCを買わなければならない。
ビックカメラ、コンプマート、ツクモから大須・上前津といった電気街を見て回るうちに「dynabook」の掘り出し物を見つけて、早速購入したのが出発前の×曜日だった。ところが、ここまでは総て順調に運んでいた計画が、この辺りからおかしくなった。その辺りは追々と記述していくとして、まずはPCである。
スペックもブランドも文句のない「dynabook」だったが、東京滞在を前にキャッシュで払うだけの持ち合わせのあろうはずはないから、仕方なくローンを組む事になった。とはいえ、月々のローン金額が嵩むと後が大変だとの考えから、取り敢えず現金があるうちに払えるだけは頭金として払っておこうと、ン万円分を頭金にして残りをローンとして組む事にしたまでは良かった。
ローンの書類を書いて手続きを終え、審査に要する30分くらいの時間を潰すために、店を出てビールを呑んだり書店をひやかしたりしながら時間を潰した後に、店を訪ねる。しばらく待っているとローン会社から確認の電話が入り、基本事項を確認して手続きが完了した。
「じゃあ、ついでに衝撃吸収バッグとアプリなども買っておくから、頭金と一緒に清算しておいてくれないか・・・」
と言い残し、バイトか派遣のような若い店員がレジを打っているのを横目に待っていたが、どういうわけか異常なまでにレジの処理にまごつき時間が掛かっている。20分、30分と経過するうち、レジには入れ代わり立ち代わり店員が現われてはボソボソと言葉を交わしているが、一向に呼ばれる気配がない。
(たかがあれだけのレジ打ちに、なんであんなに時間が掛かるのか・・・?)
とイライラしながら待っていたが、次第にそのイライラが募って来てレジ打ちの店員を睨み付けていたので、向こうの方でも引き攣った表情でレジを打ちながらも、時折チラチラとこちらの方を窺がっていた。
他の幾つかあるカウンターでは、新しい客が次々と清算を済ませて立ち去っていく中、何故かそのレジだけが30分以上経過しても、一向に処理が進んでいる気配がない。 日頃は温厚なワタクシも、遂に痺れを切らせた。
「オイオイ、一体なにやってんだ?
もう随分時間が経つけど、たかだかそんだけのレジを打つのに、何でそんなに時間が掛かってんのか?」
「申し訳ありません・・・大至急処理します・・・」
と口では言うものの、二人三人と集まって来ても一向に埒があかないのである。仕方なく、時折そちらの方へ眼をやりながら待っていると、店内からは閉店時間を告げる「蛍の光」が流れて来て、客の姿もすっかりまばらになって来た。
そこでようやく
「申し訳ありません、大変お待たせいたしました・・・」
と平身低頭しながら、店員が箱入りのノートPCと商品を持って来た。
「もう閉店時間か・・・一体、何時間掛かってんだか・・・」
と爆発しそうな怒りを抑えつつ、それでも嫌味を言いながら店を出る時は、既にシャッターが半分くらい閉まりかけていた。PCを手に、レストランに入り
(あー、待ちくたびれたわー)
とタバコを一服点けたものの、バカレジは別にしてもなんとなくスッキリしないような、妙に変な気分なのである。
(うーむ・・・なんかおかしい・・・この違和感の正体は、一体何なんだろうか・・・ま、いいか・・PCは買えた事だし・・・)
と料理が運ばれてくると、今度はPCをどんな風にカスタマイズしようかで頭が一杯となり、味の方も半ば上の空だった。そうして、ともかくも食事を済ませ、レジで財布を取り出してから思わず
「アッ!」
と叫んでしまった。
「どうかされましたか・・・?」
「いや、なんでもない・・・」
その財布には、頭金用にと普段は持ち歩かないような大金を入れてきていたのだったが、その大枚ン万円が手付かずのままに残っていた!
(そういえば、1円も払ってなかった・・・)
1時間ほど待たされたれ、イライラが頂点に達していたせいですっかり忘れていたのだったが、確かに頭金に設定しておいたン万円は勿論、他の商品代金も払っていなかった事に初めて気が付いたのである。しかしながら相手がモタモタしていたせいで、気付いた時には閉店してしまった後だったから、もうどうにもならない。さらに翌日からは、朝から東京に立たなければならない飛ばねばならない事を考えても、時間的に金を払いに行っている余裕はなかった。
(知らねーな・・・こっちは別に踏み倒す気はないし、請求してこないのが悪いんだ。 しかしこのまま上手くいって、相手が忘れてくれればそれに越した事はない・・・そうすりゃ、半額に近い値段で手に入るじゃないか・・・)
などと、ムシの良い考えも脳裏を過ぎった事は言うまでもない ( ̄∇ ̄)ニヤッ
そうしてその日の夜も、PCのカスタマイズと準備に追われた翌日もその次の日もまったく連絡が入る事のないままに、東京へ出発する日が来た。
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