「楽しいヤツよ、オマエは。そーまで言うなら非公式ででも、もう一丁やろうかい?」
「オウよ。いついかなる場合でも、背中は見せん主義だ。いつでも受けてやるぜ。但し、その前にオマエのそのお岩さんのような顔を、何とかしてもらわにゃあな」
「チッ・・・自分でやっといて、よー言うぜ」
「オレじゃなく、やったのはドン臭いコイツの方だっての」
といった調子で、すっかり打ち解けてしまった。
グラウンド上では「怪物」にしか見えなかったドージマであり、昨年から何度となく夢魔にもうなされた、この上なく怖くて憎らしい男・・・のはずだった。ところが、こうして胸襟を割って話すと
(こんなにも気さくで、優しいキャプテンだったのか?)
と驚かされ、一遍に惚れ込んでしまった。そして、別れ際には
「県大会は地区代表として、オレたちの分まで思いっきり暴れて来てくれよー。オレも応援に行くからな!」
と、笑顔で約束してくれたドージマ。胸の内はさぞ悔しさで張り裂けそうだったろうが、最初から最後までたったひとつの恨み言すら漏らさない。それどころか、爽やかに『B中』の県大会での健闘を祈ってくれた潔さは、なんと清々しいことか!
(なんと凄い、素晴らしい男だ・・・)
この「怪物ドージマ」の人間性は、さすがのヒネクレ者のにゃべも人生観を変えるような大きな感銘を齎すものであり、こんな男の見舞いをすっぽかそうとした己の愚かさを深く恥じていた。
(こんな凄いヤツと出逢えるなんて・・・やっぱり、サッカーをやってて本当に良かったなぁ・・・)
と、最も強く幸せをかみしめた瞬間だ。
「じゃあ、邪魔したな・・・怪我の方、大事にな・・・」
名残惜しいままに声を掛けると「送るぜ」と立ち上がるドージマ。
「オイオイ、気持ちは嬉しいが、無理はよくねーだろ」
「別に寝たきりの病人ってわけじゃねーよ。本当はもう、今すぐにでも退院したいぐらいだぜ。外の空気も吸いたくなったな・・・」
と、ドージマは外まで送ってくれた。
ドージマの巨体は、どこへ行っても人目を惹く。
「じゃあ、ここで・・・」
「うむ。健闘を祈る!」
「オマエが応援に来るんじゃあ、決勝くらいまで進まなきゃ引っ込みがつかねーよなー」
「オイオイ・・・決勝くらいまでってのはなんだ、そりゃ? オレは、運さえあれば全国大会に出るのも、決して夢じゃねーと思ってるんだがな」
「そーかい?」
「オレが、こんなことを言うのも僭越なんだが・・・去年とは全然比較にならんくらい逞しくなってたのには、正直ビックリよ」
というと、この男には珍しくちょっと照れたように表情を見せた。
「なんつーかさ・・・結果はともかく、あんなにサッカーを本気で楽しめたのは、中学に入って初めてだったな」
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