2004/06/24

リベンジ(中学サッカー地区大会part5)

後半の20分を過ぎた頃には、体力自慢のにゃべも慣れないディフェンスのカバーで負担が来て、膝が笑い脚が攣って来て思うように動かなくなっていた。スタミナは『B中』イレブン一を誇るキャプテンのイモも、にゃべほどではないにせよ珍しく何度も苦しげに顔を歪めていた事から、やはり脚が攣り始めていたのは確かだった・・・

 (うーむ・・・クソッ! 最早、これまでか・・・?)

と、誰もがそう諦めかけたのは無理もない。

(いつ、ドージマの次の一発が決まるのか?)

というのが、誰もが密かに考える偽らざる心境であったろう。先取点を奪われた時には「余裕の笑み」を見せた怪物だったが、それ以降ドージマから笑顔は完全に消えていた。そして、遂に決定的な場面がやって来た!

『B中』ゴール前に上がるボール・・・ゴール前で待ち構えるドージマが、ヘディングシュート狙いのジャンプ一閃。最後の力を振り絞って、死に物狂いでそれを阻止せんとドージマに密着したまま、少し遅れてジャンプしたイモ主将の執念や天晴れだ。

(やられた?)

敵味方何人かの頭の中に、やけくそで繰り出したにゃべのオーバーヘッドの足が、誰かの頭部に当たった衝撃があった (; ̄ー ̄)...?

ズドドドーン!!!

という音とともに、頭を押さえて蹲るイモ主将。さらにその先には、なんと顔面を覆ったドージマの巨体が倒れたまま、ピクリとも動かない。が、ドージマ執念のヘディングの毀れ玉は、まさに絶好のシュートチャンスとなっていた!

一瞬、フリーになった相手選手のシュートは絶妙だったが、GKモリタが体を張った執念のパンチングで間一髪クリア! ドージマの瞼の上は、バッティングを受けたボクサーのように、血が噴出していた。

「オイ、大丈夫か・・・!」

心配そうに駆け寄る両校イレブンが見守る中、『A中』主将で大エースのドージマの放った第一声は

「決まった・・・か?」

 なんというドージマの執念!

顔面を血で染めながら、第一声が「決まった・・・か?」とは。GKモリタの奇跡のセービングに阻まれたとは言え、ヘディングは正確に絶好のシュートチャンスをも作っていた。

実に恐るべき怪物!

昨年は、MFとの激突で担架に送り込んだドージマと、代役で出場機会を得ながら赤っ恥を欠いた挙句、これまたドージマの巨体に吹き飛ばされて、わずか数分で退場を余儀なくされたイモ主将だ。ところが1年後は、まったく逆の立場になってしまったのである。大エースのドージマは、この正念場の思わぬアクシデントという、敵も味方も誰もが考えもしなかった不運に見舞われてしまい、無念のドクターストップがかかった!

「こんなの怪我のうちに入らん。レフリー、大丈夫です。応急手当をしたら、続行できます・・・」

と強く申し出たが

「その傷で、続行は無理だ。こんな場面でさぞ無念だろうが、潔く退くことも大事だよ・・・」

「わかりました・・・  みんな、後は頼んだ・・・」

と、医師から却下されたドージマは無念の退場となった。

 見ているこちらが、思わず目を押さえたくなるような痛々しい状態だったが、当の本人は

「大丈夫だ・・・自力で歩けるぜ・・・」

と担架を追い返すと、仲間の肩を借りながら自力で戻っていったのは、エースの意地だったか。不思議なことに、あれだけ憎いばかりだったドージマだったが、彼がピッチを去っていく姿を見て、猛烈な寂寥感に包まれた

ドージマよ、戻って来い オ―イ・・ (;´д`)

当然の事ながら、決勝の土壇場というこの舞台において、ドージマの代わりが務まる者などいようはずもない。加えて、精神的支柱としてもあまりに存在感が大きかっただけに、大黒柱を欠いた『A中』イレブンはすっかり意気消沈したか、一気に疲労が押し寄せて足が止まってしまい、試合は一転して『B中』ペースに変わった。

ドージマのヘディングを防いだイモの執念により、ゴールキックから再会すると、肉体的なピークと同時に精神的な支柱を失った『A中』DF陣の動きは、目に見えて鈍くなった。

ドージマが消えた後、心にぽっかりと開いた穴を埋めるように、残る体力を振り絞るようにして、厳しいマークを遂に振り切ったにゃべが乾坤一擲、狙い済ましたミドルシュートが『A中』のゴールネットを大きく揺らした

2-1

残り時間は、僅かだ。

「まだまだ、わからんぞー。油断するなー!」

と、イモが声を嗄らして檄を飛ばすが『A中』イレブンには半ば諦めムードが漂い始めたように、ロングシュートばかりが目に付き始めた。対して、すっかり余裕を取り戻した『B中』イレブンの方は、ゲンキンなもので疲れも吹っ飛んだかのように軽快にパスを回し始め、新たな展開を作るとシュートのチャンスがやって来た。

自ら決めに行くと思われたイモからパスが渡り、シュート! 相手ディフェンスに当たって跳ね返ったこぼれ玉をMFのヒコが押し込み、貴重な追加点をあげて試合を決定付けた。

勝利を確信すると、フィールドを走りながら昨年の屈辱の決勝に始まり、夏場の厳しく楽しかった合宿、冬場の雪の中での厳しい走りこみ、合宿での仲間たちとのオフザケなど、長かったような短かったような1年間の思い出が、走馬灯のようにグルグルと脳裏を駆け巡った。そんな思考に浸りながら

(レフリーは、時間を計るのを忘れているのではあるまいか?)

と疑わずにはいられないほどに、ロスタイムが間延びして長く感じられ

(そろそろ終わりか?)

と、二度とないだろう至福の時間に身を委ねていた。

ピーーーッ!

遂に待ちに待った試合終了のホイッスルが、高らかに鳴った。抱き合うイレブン。去年の屈辱と、この1年間を振り返って笑顔の目にも涙を溜めている顔が少なくなかった。

「やったぞー、先輩たちよ、ゴトーよ、見ていてくれたかー。遂に『A中』を倒したぞー!!! 約束を果たしたぞー」

『B中』イレブンの歓喜の声が、木枯らし舞う競技場にコダマした。

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