2004/06/27

派遣会社(名古屋劇場part1)


 東京に約2週間滞在して転職活動をしてから一旦地元に帰り、再び上京の準備を進めていた。当初からの二段構えの計画は、まず1回目では理想の方向性を追求しての活動で、その中で決まって行くのが一番良いわけではあったが、世の中そうそう上手くいくものではない。そうした経験を踏まえ2度目のチャレンジとなる今回は、理想を掲げながらもある程度は現実的に対応していかなければならず、それらのバランスを考えながら両睨みのスケジューリングをして来ていたのだった。

3週間の間に着々と下準備は進み、仮の住居も決まった。前回は、安いウィークリーマンションを散々探した挙句、面倒になってビジネスホテルに連泊した経緯は記述してきたが、今回は日数が長いだけにホテル住まいとはいかず、半日掛かりでネットで検索をして、ようやく見つけた安くて手続きの簡単なウィークリーマンションに泊まる事となった。

前回は西葛西という、23区とはいえ地下鉄でもう二駅も乗ると千葉という最も外れの立地だったのに比べれば、今回は都内の中心部である大手町まで数分という足回りの良さである。

頭金を銀行で振り込んで(いざ出陣!)というタイミングで、数年も前に登録していたらしい(その事自体忘れていた)大手派遣会社から、思わぬお誘いが掛かった。

「人材派遣のxxですが・・・」

「なんか訊いた事あるが・・・以前、登録してたんだっけ・・・?」

「マスコミ関係のフリーランサーとして、ご登録いただいておりますが・・・」

フリーランサーといえば今のIT業界に転身する前の事だから、もうひと昔も前のカビだらけの話である。

「そういや、あの時はフリーランサーを辞めて、何でもいいから新しい仕事をしようと、目ぼしい派遣会社に登録しておいたんだっけ・・・しかし、その後は音沙汰がなかったみたいだけど、今頃何の用事なのかな・・・?」

「はい。スタッフの方の現状を確認しておりまして、にゃべさんは《希望職種・市場調査等》とありますが、現在もお変わりないでしょうか・・・?」

「市場調査って・・・そんなの希望したんだっけ・・・なにしろ全然覚えてないくてね・・・登録した記憶は微かに無くはないけど、いつだったか・・・もう随分前じゃないかな・・・?」

8年前にご登録いただいております・・・」

よくもまあ、8年も経ってから連絡をしてきたものだ・・・

8年も前のデータを見ているのでは話にならないけど、まあワタクシはあれから随分経歴が違って来てるからね・・・今はコンピューター業界に転身しているから・・・」

と、その辺りに至る経緯を簡単に話すと

「それでは、そっちの方面でなにかマッチするような案件がございましたら、改めてご連絡を差し上げます」

「ああ、そう。ま、特に必要ないけどね・・・もうすぐ東京に出て行くつもりだから・・・」

と、適当に生返事をしておいた・・・

 「なにかマッチするような良い案件が出てきましたら、またご連絡いたします」

というのは、いわば派遣会社の常套句のようなものだから

8年も知らん顔をしていながら、何を今更・・・)

と吐き捨てたのみで、歯牙にもかけていなかった。この時点で頭の中は、既に数日後に迫った東京行きで占められていたことは、言うまでもない。下準備の合間を縫って気分転換にスポーツクラブへ行くと、先日の「S社」から電話が掛かってきたのだった。

「『S社』営業のWと申します。 先日、お話させていただきました件ですが・・・にゃべさんは、現在IT関係のお仕事をしていらっしゃるそうで・・・」

「まあ、一応そうだけど。でも名古屋じゃ大した仕事がないから、東京でやっていく事に決めてね。来週から上京するから・・・」

「では名古屋でいい仕事があれば、名古屋でやっていくお気持ちは・・・?」

「なくはないけど、そもそも名古屋でいい仕事がない事は明らかだよ。ここ数ヶ月の活動を通して散々経験してきたし、インチキ臭いヤツやありもしない案件が飛び交ってたりして、もうすっかり嫌になってるのだ・・・」

「そうですか・・・しかし今からお話しする件に関しては、しっかりした良いお話だと思ってますよ・・・ともかく、話だけでもさせて下さい」

営業マン特有の押しの強さもさることながら「良い案件」と訊けば、どんな内容かを訊いてみたくなるのが技術者のサガというものである。

「やるやらないは別として、訊くくらいは訊かないでもないが・・・」

というや、早速立て板に水の如しで弁舌爽やかに話し始めたのは良いが、なにせITに関する知識がまったく追いついていないのである。

「いかがでしょうか・・・今の話を訊かれて?」

「いかがも何も、なんだか良くわからない話だし・・・」

「申し訳ありません・・・なにせ私も詳しくないものですから、このくらいの説明しか出来ませんで・・・」

「それじゃ良くわからないねー。せめて詳しい担当者に説明して貰いたいものだ・・・」

「なにせ、当社は女性のOA事務が中心で、(東京)本社はともかく名古屋ではあまり、というか殆どこの手の案件は扱って来なかったのです・・・というわけで申し訳ないですが、詳しい話は案件の担当営業から改めて説明をさせます」

とこの時点でも、まだまだいい加減に訊いていた部分が残っていた事は否めなかった。

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