2004/06/28

財産(中学サッカー地区大会part8)


あの先取点を奪われた時に、実に愉快そうな笑顔を浮かべていたのは、そういう意味だったのか! 地区内では「精密機械」や「勝つためのロボット集団」のように語られることの多かった彼らとはいえ、自分たちと同じ熱い血が流れた生身の中学生なのだ。

 前年決勝での「0-5」の完敗後、練習試合では「0-6」と返り討ちに合った。その後、渋る相手に再三に渡って頼み込んで、ようやく実現した再試合は「1-1」の引き分けと予想外の大健闘をした。

あの強敵を相手に引き分けたというので、『B中』イレブンの方は大いに盛り上がったものの、それに冷水を浴びせるように『A中』関係者を中心に

「『A中』は、手を抜いたんだろう」

と言う声が聞かれたのだった・・・  が、この時、ドージマは明言した。

「どんな相手だろうと、勝負に手など抜くわけがねー。だから外野の声など知ったこっちゃねーが、今日は厳しい試合になることは覚悟してたぜ。いや、これはオレだけでなく、他の連中だって同じさ。だからこそ、みんなあれだけ本気で悔しがっている、ってことよ」

「なるほど・・・」

そんな「常勝集団」の彼らを本気にさせ、楽しませたことは誇らしい思いであった。

「負けて悔しいはずなのに、あんなに楽しい試合は初めてだったな・・・  僅か1年で、よくぞここまで・・・」

「怪物ドージマから、そう言われるなんて・・・最大級の賛辞だな、それは。  なんと言っても、去年はあんな思いをしたからな・・・誰かのせいで・・・」

「誰のせいかいな?」

というと、悪戯っ子のように笑うドージマ。まったく、どこまで魅力的な男か!

「ともかく、オレも応援で遠くに行けるのを楽しみにしてるんだぜ」

「ようし! オマエのそのデカい体を、遠いとこまで運んでいってやるよ」

「楽しみしてるよ・・・」

 「なぁ・・・ドージマって・・・何というか、実に器の大きい男じゃねーか・・・」

と照れながらも、すっかりドージマの男気に参ってしまった口下手なイモに、同感であった事は言うまでもない。

「うむ。確かに・・・どこぞのキャプテンとは、雲泥の差だな?
あんなキャプテンの下なら、さぞかしやりがいがあるだろう」

「ん・・・? テメー、コノヤロー!
そりゃ、オレに対するアテツケかー? 
それを言うなら、スタンドプレーばかりのどっかのチームのエースとも、エライ違いだろーがよー」

と、イモが顔を真っ赤にして怒鳴った。

 そして翌日。イモ主将が、ガンゾー監督に一連の顛末を語って聞かせた。

「ドージマというのは、本当に人間的にも凄いヤツで・・・ 同じキャプテンでも自分とは天地ほどの違いだと、恥ずかしいやらなんやらで」

と、興奮気味に話すイモに

「おっ! オマエも成長したな・・・そうそう、それなんだ! その「気付き」こそが、財産なんだよ」

と、若き熱血教師ガンゾーが爽やかに笑った。

「勝ち負けも大事だが、実はそれ以上に大切な事ってのがある。オマエたちは、それに気付いたんだな。どのスポーツにも言えることだが、実のところそれこそがスポーツを通じて、真に追求していくべき目標なんだな。
そういう意味では『A中』のドージマは、敵味方を超えてアッパレな凄いヤツだし、サッカー技術を含めて現状ではオマエたちよりも遥かに上だろう。また、ああいう選手を育てた『A中』監督には、オレ自身も新米監督としてまだまだ学ぶところも多い。
今回はオレも本当に得がたい勉強をさせてもらったし、またこんないい話を聞かせてもらった。そういうところに気付いたオマエたちは・・・オレは指導者としてまだまだ未熟だが、正直これは誇りに思う。だからオレもオマエたちには、ホントに感謝しないといけないな・・・」

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