あの先取点を奪われた時に、実に愉快そうな笑顔を浮かべていたのは、そういう意味だったのか!
地区内では「精密機械」や「勝つためのロボット集団」のように語られることの多かった彼らとはいえ、自分たちと同じ熱い血が流れた生身の中学生なのだ。
前年決勝での「0-5」の完敗後、練習試合では「0-6」と返り討ちに合った。その後、渋る相手に再三に渡って頼み込んで、ようやく実現した再試合は「1-1」の引き分けと予想外の大健闘をした。
あの強敵を相手に引き分けたというので、『B中』イレブンの方は大いに盛り上がったものの、それに冷水を浴びせるように『A中』関係者を中心に
「『A中』は、手を抜いたんだろう」
と言う声が聞かれたのだった・・・
が、この時、ドージマは明言した。
「どんな相手だろうと、勝負に手など抜くわけがねー。だから外野の声など知ったこっちゃねーが、今日は厳しい試合になることは覚悟してたぜ。いや、これはオレだけでなく、他の連中だって同じさ。だからこそ、みんなあれだけ本気で悔しがっている、ってことよ」
「なるほど・・・」
そんな「常勝集団」の彼らを本気にさせ、楽しませたことは誇らしい思いであった。
「負けて悔しいはずなのに、あんなに楽しい試合は初めてだったな・・・
僅か1年で、よくぞここまで・・・」
「怪物ドージマから、そう言われるなんて・・・最大級の賛辞だな、それは。 なんと言っても、去年はあんな思いをしたからな・・・誰かのせいで・・・」
「誰のせいかいな?」
というと、悪戯っ子のように笑うドージマ。まったく、どこまで魅力的な男か!
「ともかく、オレも応援で遠くに行けるのを楽しみにしてるんだぜ」
「ようし! オマエのそのデカい体を、遠いとこまで運んでいってやるよ」
「楽しみしてるよ・・・」
「なぁ・・・ドージマって・・・何というか、実に器の大きい男じゃねーか・・・」
と照れながらも、すっかりドージマの男気に参ってしまった口下手なイモに、同感であった事は言うまでもない。
「うむ。確かに・・・どこぞのキャプテンとは、雲泥の差だな?
あんなキャプテンの下なら、さぞかしやりがいがあるだろう」
「ん・・・? テメー、コノヤロー!
そりゃ、オレに対するアテツケかー?
それを言うなら、スタンドプレーばかりのどっかのチームのエースとも、エライ違いだろーがよー」
と、イモが顔を真っ赤にして怒鳴った。
そして翌日。イモ主将が、ガンゾー監督に一連の顛末を語って聞かせた。
「ドージマというのは、本当に人間的にも凄いヤツで・・・ 同じキャプテンでも自分とは天地ほどの違いだと、恥ずかしいやらなんやらで」
と、興奮気味に話すイモに
「おっ! オマエも成長したな・・・そうそう、それなんだ! その「気付き」こそが、財産なんだよ」
と、若き熱血教師ガンゾーが爽やかに笑った。
「勝ち負けも大事だが、実はそれ以上に大切な事ってのがある。オマエたちは、それに気付いたんだな。どのスポーツにも言えることだが、実のところそれこそがスポーツを通じて、真に追求していくべき目標なんだな。
そういう意味では『A中』のドージマは、敵味方を超えてアッパレな凄いヤツだし、サッカー技術を含めて現状ではオマエたちよりも遥かに上だろう。また、ああいう選手を育てた『A中』監督には、オレ自身も新米監督としてまだまだ学ぶところも多い。
今回はオレも本当に得がたい勉強をさせてもらったし、またこんないい話を聞かせてもらった。そういうところに気付いたオマエたちは・・・オレは指導者としてまだまだ未熟だが、正直これは誇りに思う。だからオレもオマエたちには、ホントに感謝しないといけないな・・・」
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