2004/06/21

約束(中学サッカー地区大会part2)

 第1試合『B中』対『F中』では、両校エースのにゃべとコジマが真正面からぶつかった。昨年、唯一『A中』と互角に近い戦いを演じた『F中』の地力は本物で、どちらが勝ってもおかしくない大接戦となり、あわやPK決着かと思われた終了間際にカネコの1発が決まり、21で『B中』がなんとか勝利を捥ぎ取った。

これで、決勝進出だ。続く第2試合は『A中』対『C中』の激突となった。試合前、旧友ゴトーの激励に訪れた、にゃべ。

「『A中』のドージマってのは、トンデモない化け物だからな・・・オレたちも去年は、散々に酷い目に合わされたし・・・要注意だぞー」

「ああ・・・充分わかってるさ。確かに、あのドージマを封じるのは難しいかもしれん・・・  が、トータル力では、絶対にウチの方が上さ・・・まあ、見てりゃわかるよ」

とゴトー主将はドージマを恐れるどころか、満々たる自信が頼もしい。

試合は予想通り、キックオフ直後からハイレベルな鬩ぎ合いが展開される中、ゴトーの言葉の通り『C中』のチームプレイが、やや空回り気味の『A中』の個人技を抑えて、巧くペースを掴んだ。

『A中』頼みの大黒柱・ドージマのエンジンがまだかからぬうちに『C中』が早くも1点を先攻。その後も、前半を通し押せ押せで攻勢をとっていたのは『C中』だったが、決定打が出ない。膠着状態の中、終了間際に『C中』に痛恨の自殺点が飛び出し、1対1の同点。ゴトーが頭を抱えたところで前半を終えた。

後半に入ると、互いに積極的な攻撃を仕掛ける。どちらも決め手を欠いたまま、またしても膠着した雰囲気になりかけた。そして後半15分、『A中』ディフェンス陣の堅い網を、見事なドリブルで掻い潜っていったゴトーのシュートが鮮やかにゴールネットを揺らした。

2-1と、再び『C中』が勝ち越しだ。

「オイオイ・・・これは『C中』が、イケそうな雰囲気じゃねーか? 『A中』もドージマも、今日はイマイチだな? あれだと、ゴトーの方が全然上じゃねーか?」

「ウムム・・・ ちょっと意外な展開だ・・・『A中』の方は、まったくペースがとれてねーし『C中』はよく研究して、頑張ってるなー」

そんな風に、にゃべとイモが会話を交わしていたこの1点ビハインドの場面から、まるで2人の会話が聞こえたかのように、俄かに『A中』怒涛の波状攻撃が始まった・・・

 ここまで有利に試合を進めてきた『C中』だけに、後半を半分ほど過ぎた辺りからは疲労の色が滲んで来たのも無理はない。あたかも、その時を待っていたかのように『A中』イレブンの方は、ようやくエンジン全開といった感じで、あの怒涛のように押し寄せる迫力満点の攻撃は健在だった・・・

エース・ドージマを基点とした分厚い攻撃は相変わらず破壊力満点で、嫌が応にもボロ負けを喫した去年の屈辱を呼び覚まし、背筋に冷たい悪寒が奔るのがわかる。そして遂に、ドージマの強烈な同点シュートが決まると『C中』の方はなすすべなく、防戦一方に廻らざるをえなくなっていった。

終盤は『A中』が疲労の色濃い『C中』ディフェンス陣を一方的に攻め立て決勝点を奪う。

3-2

これで終わりか、とみなが思ったところで『C中』も息を吹き返す。終了間際、ゴトー執念のゴールで同点と思われたが、無念のオフサイド。ゴトーを中心になおも懸命に食い下がるが、1点差が重い。最後まで喰らいつくゴトーの執念は見ていて感動的ですらあったが、老獪な『A中』の高い壁を破るまでには至らず、遂に『A中』が見事な逆転勝利を収めた。

 後半からは『A中』怒涛の攻撃に晒され、ボロ雑巾のように疲れきった『C中』主将でかつての級友ゴトーが、傾きかけた夕日を背にして訪ねて来た時は、まるで死人のように憔悴しきった顔だった。

「オイ、にゃべ! チクショウー、オレは悔しー。これで、オレのサッカーは終わったよ・・・なあ、にゃべ・・・たった1年だったけど、オレたち同じ釜の飯を喰った仲だよな?」

「ああ、勿論だとも・・・オマエの言わんとするところは、よくわかってるつもりだ・・・」

男泣きに歪んだ友の顔が正視に耐えず、背を向けたまま返事を返すと

「あの化け物ヤローの泣きっ面をオレに見せてくれたら、オレは思い残すことはない。この場で腹を切ってもいいくらいだ・・・」

「オイオイ・・・これでサッカーが終るわけじゃあるまいし。そう死に急ぎなさんなって・・・まあ、よーく見ていろ。去年の借りも含めて、あの化け物を存分に泣かせてやるからよ。必ずな・・・」

「頼んだ・・・」

「わかった」

互いに言葉数は少ないものの同じエース同士、またかつての級友として多くは語らずとも、心は通じ合った。

(先輩たちのためにも、ゴトーのためにも、オレは絶対に負けるわけにはいかん!)

闇の中で爛々と光る双眼。去っていく友ゴトーの大きな背中と、1年前に慟哭を遺して去って行った先輩たちにも、改めて「打倒A中」の必勝を心に誓った。

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