ところが次いで電話の掛かってきた担当の営業マンも、前の人物ほどではないにせよIT関係には詳しくないらしい。現場でクライアントから、直接ヒアリングを受けている分だけは内容理解度は天地ほどの違いがあったが、ITの知識そのものの不足は否めないところだけに、充分なイメージが湧くとは言い難かった。
「私の説明では、正しく理解される事は難しいかと思われますので、ともかく客先で話を訊いていただくのが、一番良いと思うのですが・・・話だけでも正確なところを訊いてみない事には、判断のしようもないのかと・・・」
「まあ、確かに興味がなくはない・・・名古屋でいい話が決まれば、無理をして東京に行く事もないかもしれないけど・・・しかし東京行きは名古屋に見切りをつけた上での前からの計画で、既に週明け早々には何社かの面接も入っているし、住居の頭金も払っている。だから余程、内容的に魅力的な話でなければ、やらないだろうと思う・・・」
「その辺りは勿論、話を訊いた上でのにゃべさんの判断なので、私からはなんとも言えませんが・・・ただ、にゃべさんにとっては絶対にプラスになる話だと思って紹介しております」
この時点で、予約のしてあった東京行きには既に一週間を切っていたので、その事も伝え
「日程的には、前から決めてある東京の方を優先していくので、あまり時間が掛かる場合は途中でキャンセルになるけど」
と、念を押しておいた。その間も東京行きの準備は着々と進めるという、ジリジリするような密度の濃い時間が経過する中
「面接ですが明後日の木曜日に決まりましたので、よろしくお願いします」
「面接は、それ1回で結論が出ると?」
「一応2回ですが、事情を説明して当社取引先で面接を行い、その足でエンド(クライアント)へ一緒に行っていただきます。結果もその日か、遅くとも翌日までにはいただけるという段取りが付いています」
という話に落ち着いた。
とにもかくにも話を訊いて見なければ正確な事はわからないから、目は東京を向きながらも目前の名古屋での案件を判断していくという二段構えで、まずは客先訪問となったのだったが、そこには思わぬ嫌なヤツが待ち構えていた!
これまで数ヶ月の経験から、地元での案件は希望に沿わないか、希望に沿ったものは途中でいつもわけのわからない力が働いているとしか思えないような、不合理な感じでNGとなるのが決まったパターンだったから、この時も上京前の準備期間中の時間潰しのような気持ちも、幾らかは働いていた事は正直否定出来ない。クライアントは、地元の人間なら誰でもその名を知っている大手金融機関の某センターで、ネットワーク基盤系はIBMが仕切っていたのでIBMのお偉方や技術者と会う事になった。
「これから新しいシステムを、我々と一緒に創っていくための技術者を探しております。一緒に新しい分野を模索をしながら、3ヵ月乃至4カ月以内にクライアント(大手金融機関)に提供する環境を作っていかなければなりません。
unixは当然の事ながらIBMのAIXで、こちらの方は社内のメンバーでバリバリのスペシャリストがゴロゴロといますが正直、今のメンバーでCiscoのNetworkやWindows系が弱い。そこで、にゃべさんのWindowsの知識をお借りしたいと・・・ 勿論Cisco認定やMicrosoft認定といった、ネットワーク全般の知識にも期待するところがあって、今回声を掛けさせていただきました。
これから3~4ヶ月の間に、新しいネットワーク機器の選定から設定までを一緒に研究しながらやって行きたいなと」
正直S社の営業から訊いていた話からは、まったく想像もつかないような展開になってきた。そもそも「3ヵ月乃至は4ヶ月」という事は、ここへ来るまでまったく訊いておらず、当然の如く頭から長期間の仕事だと思っていたから
(3ヶ月やそこいらでは、話にならんわ・・・)
というのが、第一印象である。加えて「未知の分野」という事でギャラもそんなによくはないし、立地的にもかなり不便なところで、通勤が大変そうであった。
が、仕事の内容そのものは当初訊いていたよりは遥かに魅力的であり、新しい環境を創っていく中に携わっていけるというのは、かなりやりがいを感じられそうだ。そして内容こそが最も重要であるのは、言うまでもないところでもある。
頭の中は殆ど東京行きで固まった上に、面接のスケジュールや仮住まいの頭金も払い込んだ状況の中で
(それらを全部ひっくり返しても、やってみる価値があるか?)
という、新たな迷いが始まった。
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