地区大会で、憎っくきライバル『A中』を破った『B中』サッカー部。まだ年若いとはいえ、お堅い性格のガンゾー監督から
「『A中』のドージマの様子は、どーなんだろうなー? かなり出血していたから、心配だ・・・オレは『A中』の監督に挨拶に行くから、オマエら2人はドージマの見舞いに行って来いや・・・」
と命じられた。
とはいえ、よもやの逆転負けに試合終了後も、憮然とした表情を並べていた『A中』イレブンの様子を見ると、顔を合わせればひと悶着は避けられそうもないだけに
「試合で起こった事故だし、別にそれほど気遣う必要もないだろ・・・ガンゾーには、行ったことにしとこうぜ」
と薄情を決め込まんとする、にゃべ。
「そういってもなぁ・・・オレが原因だし。正直オレだって、行きかーねーが・・・ しかしドージマのヤツも具合も、気になるしなー。やっぱ、オレ一人じゃなにされるかわからんし、オマエも一緒に来てくれよなー」
「バカヤロ!
デカブツ揃いの『A中』じゃあ、2人だってたいして変わらんだろーが」
「もしもの時は、オマエの空手と少林拳で・・・」
気は小さいが、律儀な性格のイモに引っ張られシブシブ病院へ足を運ぶと、案の定『A中』イレブンが雁首を並べ、ジロリと睨みを利かせて来たではないか。
「ようよう。『B中』のヤツラじゃねーか!」
あたかも「何しにきやがった?」と言わんばかりの態度だ。
「その・・・ドージマの怪我は、どんな具合かと思って・・・」
「そうそう、オメーだったよなー。頭ぶつけてきやがったのはよー。オメー、狙ったんじゃねーのかよ?」
血の気の多そうな茶髪が一歩前に出ると、早速イモに詰め寄った。
「あんなの、狙って出来ねーし・・・ドージマには悪いが、ありゃまったくの偶然だ・・・」
「どーだかな。オレらは、この結果はどうも納得いってねーんだ。ヒロがいりゃ、絶対逆転で勝ってたはずだからなー」
そうだそうだと囃す声が出て、思わずカッと来たにゃべは
「なに言ってんだー。あの結果は、ドージマの負傷とは関係ねーだろーが。結果は素直に受け入れろ」
と挑発すると
「なんだとー、コイツ!」
と睨みを利かせ、一気に険悪なムードがピークに達した。
「あななたち! ここをどこだと思ってるの?
騒ぐなら、外でやりなさい!」
と看護婦が怒鳴ったのも耳に入らぬように、血の気の多い連中がズイと詰め寄り、あわや一触即発。
(こうなりゃやるしかねーぞ、イモよ・・・)
と目で合図をしたが、あくまでも臆病なイモは
「まあまあ。確かに、結果はどうなったかわからんが・・・それだけに、ドージマやみんなには済まないと思って、こうして来たんだが・・・」
と目を伏せていると
「オマエらー、えー加減にせんかいー! 折角、見舞いに来てくれた相手に、そんなくだらん言いがかりがあるかい!」
この病室からのドスの効いた声の主こそは、誰あろう渦中のエース・ドージマその人のものだった!
「だが、ヒロよ・・・実際、オマエさえいりゃあ・・・」
「そんなの、わかりっこねー。現にあそこまでイーブンだったし、どーなったかしれたもんじゃねーぜ。ともかく、病室で騒ぐのはやめとけ」
ドージマの声は試合中同様に、あくまでも落ち着いていた。
「これまでのことは感謝してる。だが・・・もう引き取ってくれねーかな」
と、有無を言わさぬ厳しい口調だ。
「ちっ、しゃーねーな・・・」
さすがに『A中』主将ドージマの統率力は絶大で、ブツクサ言いながらもイレブンは医務室からゾロゾロと出て行った。
「スイマセン・・・お騒がせしちゃって・・・」
と、看護婦が出て行くのを確認したドージマが口を開いた。
「わりーな・・・折角、来てくれたのに。奴らも根は悪い連中じゃねーんだが、今はまだ興奮状態だから、なに言っても埒があかねーな。まあ悪く思わんといて欲しい」
「いや・・・と、トンデモナイ。連中の気持ちは、凄いよくわかるし・・・本当にオレも、悪いことしちゃったなぁ・・・」
「仕方ねーさ・・・わざじゃねー事はオレが一番よく知ってるし、これも運だったと思ってるぜ」
と意外にも当の本人たるドージマ自身が、誰よりもサッパリとした表情なのには驚いた。
「でも実際、あのままオマエがいたら・・・果たして、どうなっていたかわからなかったからしな・・・」
「まあな・・・しかし、そういうのを言い始めりゃ、キリがねーな」
と、どこまでも潔いドージマ。
「いや、あのままオマエがいたとしても、結果は変わりようがなかったぜ」
と、敢えて挑発してみた。
「オーオー、言ってくれるじゃねーかよ。最後は膝が笑ってやがったのは、誰だったかな?」
「う・・・ばれてたか・・・なーに、あそこからが二枚腰のにゃべ様だからな」
「ククク・・・」
意外なことに、ドージマが楽しそうに笑った。
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