2004/06/29

ロッカールーム(中学生図鑑part16)


 記憶にある限り、イモとは『B小』時代は1度も同じクラスになったことがない。中学も含めた9年間でも、同級になったのは僅かに1度だけで、出逢いは『B中』サッカー部からだった。

同学年の『B中』サッカー部員は『B小』サッカークラブに属していたメンバーが6人に、小学校時代は別のクラブだったイモとタケウチの8人で、タケウチは練習に付いていけず直ぐに脱落した。残った7人の中で、イモだけが水泳クラブからの「移籍」だけに、唯一中学から初めて同僚となった男だが、どういうわけか最初からウマが合った。

最初に声をかけたのは、自分から方だった。イモによれば

「なんせ、オマエは『神童にゃべ』だったし、小学生時代は遥かに仰ぎ見るような存在だったからな。多分、オレだけじゃねー、他の連中も同じだろう。同じクラスになったことはなくても、散々に噂は聞いてたし名前はよく知ってたが」

とのことで、そのせいか最初のうちは話し掛けると引き攣ったような表情でポツリ、ポツリと返事を返してくる程度だったから、こっちとしては単に

(無口なヤローだ・・・)

くらいに思っていた。が、サッカーの実力にかけては、こちらとも遜色なかったことで、自然と気安くなっていった。この辺りが、スポーツの素晴らしさだ。

「あの『神童にゃべ』と、こんなに軽口が訊けるようになるとはな・・・オマエ方はバカにしてたんだろうが・・・」

「オイオイ。バカにしたことなんて、あるわけねーだろーが」

「そりゃ、ホンマかいな?」

「中学までオマエの存在すら知らなかったオレが、どーやってバカにできるんだ?」

「ヒデーな。存在すら知らんとは、呆れてモノが言えん」

「だって一緒のクラスになったことがないんだから、知らないのがフツーだろ」

といった調子で、何を言われても笑い飛ばしてしまう寛容なところが、この友の最大の長所だ。

ところで『B中』サッカー部といえば、当然大エースのにゃべがキャプテンになるものと誰もが思っていたに違いないが、実際に前キャプテンから新キャプテンに任命されたのは、このイモだった。級長や生徒会長には、それほど魅力は感じなかったが「サッカー部主将」に対しては大いに野心があったし、また当然自分がなるものと思っていただけに、これにはかなりショックを受けた。

激怒して前キャプテンに詰め寄ったのは、およそ1年前だ。

 「なんで、イモがキャプテンなのか? ハッキリ言って人格・力量ともに、オレの方が数段上だと思うんだが・・・」

前キャプテンは笑っていたが、ニベもなく言い放った。

「いや、オマエよりイモの方が、キャプテンに相応しいよ。オマエはいつも自分のことだけを考えて、周囲の事を考える余裕がないからな・・・」

当時を振り返って、ある時イモに

「あのバカなセリフだけは、今でもオレは許しとらんぞ!」

と息巻いてみせると、イモは呆気に取られた表情だ。

「オマエ・・・それって、マジで言ってたりする?」

「当然だろーが!」

「てことは・・・あれがキャプテンの真意だと、もしや今でも思っているって・・・?」

「何だと・・・違うとでも言うのか・・・」

すると、イモが腹を抱えて大爆笑を始めた。

「オイオイ、世の中にオマエくらい賢いのはいないと思ってたが、案外とアホだったんだな。オレなんぞは、最初からキャプテンのハラは、ミエミエに見え透いていたぞ」

「キャプテンのハラも、ヘッタクレもねーだろーが・・・」

「あんなの逆説に決まってるだろ!」

「逆説・・・だと? 一体、何を言ってるんだ・・・」

「オマエには、周囲に捕われず好き勝手に暴れて欲しいんだと・・・それがオマエの欠点でもあり、また美点でもあるわけだが・・・キャプテンとしては、それがチームの勝利に一番いいと判断したわけさ。それで面倒な雑務が多いキャプテン業は、ワキ役のオレに押し付けやがったんだ・・・」

「それは・・・オマエがこの場凌ぎの思いつきで、創作した話じゃねーのか?」

「チッ! どこまでも、疑い深いヤローだな」

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 「オレがキャプテン? やっぱオレより、にゃべの方が・・・第一、オレのキャプテンなど、アイツが納得するはずがないし・・・」

「納得するも何も、もう決めたことだ。実際、キャプテンってのは格好いいモンじゃねーんだ。面倒な雑務が多くてな。済まんが、我慢してくれ・・・にゃべには、プレーに専念してもらいたい。アイツは、オマエと違ってワガママだから、キャプテンのような雑務は似つかわしくない・・・」

よくぞ、このイモがサッカー部にいてくれたものだ。

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