ブラームスにとって交響曲を作曲するということは、ベートーヴェンの影を乗り越えることを意味していました。それだけに、この第1番の完成までには大変な時間を要しています。彼がこの作品に着手してから完成までに要した20年の歳月は、言葉を変えればベートーヴェンの影がいかに大きかったかを示しています。そうして完成したこの第1交響曲は、古典的な佇まいを見せながら、その内容においては疑いもなく新しい時代の音楽となっています。
他のジャンルでは、次々と傑作を産み出していたブラームスに、評論家が問うた。
「何故アナタほどの人が、交響曲を創らないのですか?」
すると、ブラームスは
「ベートーヴェンが、9つの交響曲で総てを言い尽くしたのに、このうえワガハイ如きが何を付け加える必要がありましょうか?」
と答えたと言う。
無論、これは本心であるはずがない。「ベートーヴェンという、巨人の足音を聞きながら」密かに、ベートーヴェンの交響曲に勝るとも劣らぬような、世間をアッといわせるような交響曲を作ってみせんと、人知れず血の滲むような創作を行っていたのである。そうして20年以上の歳月を費やしながら、改訂に改訂を重ねてようやく出来上がったのが、この第1番であった。
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