そうなると、こっちとしてはリハで休んだイトーには是非とも、本番も休んでもらうのが絶対条件だ。で、オレはリハ終了後に、風邪で休んでいるイトーにわざわざ電話を掛けて
「オマエ、明日はどーなんだ?
出てこれるのか?」
と確認したさ。普段、口をきいたこともない「英雄」からの電話に、イトーの方は戸惑いながらも
「明日になってみないとわからないけど・・・出たとしても徒競走は無理かな・・・」
という返事だったから、オレは内心で飛び上がりたいのを必死で堪えて
「そうだな。
こじらせてもつまらんから、あんまり無理するなよ!」
と、暗に「出てくるなよ」と釘を刺しておいたことは、言うまでもない。もしも当日にヤツが出てきたら、オレは脅してでも徒競走を休ませる覚悟だったし、最悪の場合はもう1人前のヤツに代わってもらうつもりだった。クラスでのオレの影響力を考えればそれくらいは簡単だったし、万一渋るようだったら殴りつけてでも代わってやる、と思ってたよ。
が、オレの願いが通じたか、幸いにして本番にもイトーは出てこなかった。こうなれば後は簡単で、もし本番で1人くらいのズレが出たとしても大して目立たんだろうし、事前に入れ替わっておけばいいと思ってた。だから、リハの時に 「オレたち同じ組かよ?」と本当に驚いたのはアイツだけで、オレの方はまったくの演技だったわけよ。
なに、騙されたって?
まあ、あれは後の話を面白くするための方便だと思ってくれよ。もっとも、これが気の弱いヤツだったら本番で確実に勝つため、オレとの勝負を避けて入れ替わってくることもあるだろうが、ことアイツに限ってはその懸念は皆無だ。そもそも、自分が負けるとは爪の先ほども考えてもないヤローだからな。というよりも、そもそも向こうは相手が誰だなんてことすら、ハナから眼中になかったろう。これも、オレにとっては好都合だったわけだ。
もっとも、リハではオレの方がやられたわけだが、それでも
「余計な操作をしなければ、楽に1等賞が取れるのに」
とかは、まったく思わんかったな。実際、本来の組なら楽に勝てる顔ぶれだったが、最早ここまで来ては
(アイツに勝つのでなければ「1等賞」も大した価値はない!)
くらいに、異常に入れ込んでいたからな。もしも出走順が最初から全然違ってたら、勿論こんな発想は出なかったが、幸い2つしか違わなかった上に、上手い具合に本番前にイトーが休む、おまけにアイツは5番目に並んでくるわでね。これだけ次から次にお膳立てが整ったら、オレの立場としては指を銜えて見過ごすわけにはいかねーよな。
「これは神がオレのリベンジのために、設えてくれた舞台なのだ!」
と思うのも、不思議じゃねーだろーよ。
それでも、オレとアイツとはちょっと身長差があったから、フツーなら
(何で同じ組に?)
と思うところだろ?
クラスによって身長差のバラつきはあるとはいえ、朝礼での並び順とかオレの身長を考えたら、フツーならおかしいと思うはずなんだが、そこはズボラなアイツらしくオレの「工作」には、最後までまったく気付いてないようだったな。 ここまでは、総てオレの描いたシナリオ通りというわけよ (*`▽´*) ウヒョヒョヒョ
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