「なんせ今回の仕事は、物凄い条件悪いですからねぇ・・・」
と皮肉ると
「えっ?」
と言わんばかりに、意外そうな表情を浮かべたY氏。
「そんなはずはないですよ。そんなに低くは・・・Tさんのとこからは、幾らと訊いてますか?」
無論、本来はこんなことを公表してはいけないのは当然のルールだが、欲の深そうなT氏が非常識なまでに抜いている疑惑が濃厚になっており、この際、真偽を確かめるため、あえて事実をありのまま伝えると
「それは・・・(しばし絶句ののち)確かに、厳しいですねー。実はTさんとは、最近付き合い始めたばかりなんですが、どうも・・・こんな事、にゃべっちさんだから話すのですが、正直イマイチ信用できないっていうか・・・」
「元々、かなり安いとか言ってましたが」
「いやいや、それは、かなり抜き過ぎてますよ」
「ちなみにYさんところは・・・xxくらいは、出してますか?」
「ほぼ、そのくらいですねぇ」
単価のレベルによっても勿論違ってくるが、通常この業界での中間マージンは15~20%が相場といわれているが、Y氏の話をそのまま信ずるなら、T氏は40%近くものピンハネを目論んでいた事になる。
勿論、最終的にこちらの懐に入ってくるのが常識的な金額であれば、仮に50%以上ピンハネしようと文句はないが、常識外れの低い提示をしておきながらこれだけマージンを取ろうとしていたとは、最早呆れて物も言えぬ。 勿論、Y氏が本当の事を言っているという保証はないが、まずこれまでの経験に照らして判断するなら、やはりY氏の言い分の方に分がありそうに思われた。
「だいたいYさんは私とも面識があるわけですし、私の資料も手元にあるんでしょうから直接、声を掛けてくれたら良かったんですがね」
「そうですねぇ・・・ここまで酷いとわかっていれば、そうしとけば良かったですねぇ」
と少し考えてから
「もし、にゃべっちさんさえよければ、ウチ直接でやりませんか?
そうしたらさっき言った通り、xxくらいは出せますよ」
と提示されたのは、それでもようやく相場並みになったという程度だったが、T氏の提示に比べれば遥かに違っていた。
「今更・・・ そういうことが可能ですか。
次回からならともかくとして、今回のケースで・・・」
「別に可能なんじゃないですか。無論、本来はこんなことは出来ませんが、今度のはあまりにも酷いですし。もしダメだった場合は議論の余地はないですが、決まった場合でもTさんには『ダメでした』と言っておけば、わからないじゃないですか」
「なるほど。そういうテがあったか・・・ま、ともかくそれはOKが出てからのことだから、そうなったら相談にしましょうか」
「じゃあ、にゃべっちさんの携帯の番号を教えて下さい。今後は直接、連絡しますので。どうもTさんの携帯は、連絡も悪くてね・・・」
そうしてY氏と別れてから、暫くするとT氏から連絡が入った。
「明日、元請けの会社に行く事になったんだって?」
「らしいですね。それで・・・」
T氏は憎いオヤジだが、それは別としてもやはり裏でコソコソやるようなのはやはりよろしくないと、一応は筋だけ通しておこうとという思いで
「今回の件ですが、あまりに単価が低すぎるのでY氏の会社と直でやってはダメですかね?
元々あの人とは、以前からの知り合いでもありますし」
と持ちかけてみると
「ダメだダメだ!
ウチが持ちかけた話ってのを忘れて貰っちゃ困るよ」
と、意外にも心外そうな強い調子で拒絶してきやがった。
しかも
「アンタ、いつもそんな風に持ちかけたりするの?」
と来た。
「無論、こんなバカな持ち掛けは、これまではどこにもしたことないですよ。なんせ、こんな常識外れの酷い条件を提示されたのは、初めてですからね。さすがにこのような低い単価設定では、ちょっと出来そうにないものでね・・・」
「そんなに安くて気に食わなかったら、この話はもう断っちまうか?
そういうこと言うなら今後、もう仕事の紹介は出来ないぞ」
(どうせロクな話を持ってきやがらねーくせに、言う事だけはご立派じゃねーか)
「いいですよ。なんなら辞めにしても。まあ、好きにしてください」
と啖呵を切ってやったところまでは良かったが、その翌日になると朝一番にCS社のY氏から
「では今日の元請けでの面接、よろしくお願いします!」
と直接、電話が入った。
(後は決まってから考えるとして、ともかく話がうまくまとまりさえすれば、交渉の余地はあるだろう・・・)
と、元請を訪ねていった。
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