こうして、4年、5年、6年と成長していくにつれて、他の連中とはあらゆる点でドンドンと差が広がっていって、オーミヤを除けばライバルらしいのもいなくなりつつあった。そんな状況だから「神童にゃべっち」のことも、次第に忘れかけていた・・・・トラウマが、ようやく癒えかかっていたんだ!
ところが、そうして万事が上手い具合に運んでいた矢先に、嫌でも「神童にゃべっち」を思い出さないかんという、時計の針が無理矢理に戻されるような「衝撃的な出来事」が起きた。それが、読書感想文コンクールだ。すでに『H小』に転向していた4年生の年、オレはこのコンクールで「優良賞」を取った。このコンクールは1年の時から毎年投稿していたが、入賞したのはこの年が初めてだ。
「見たか『B小』のヤツラよ!
オレは、この新しい学校で生まれ変わったのだ!」
と快哉を叫んだが、入賞者の名前を見ていくと「優良賞」の上の「優秀賞」に、しっかりとアイツの名前があるではないか!
これでオレの喜びは、一気に萎んで行ったよ。さらに、6年生の年には「優秀賞」も獲った(その年は、にゃべっちは不参加)。このコンクールは「低学年の部(1~2年生)」、「中学年の部(3~4年生)」、「高学年の部(5~6年生)」と分かれているから、当然ながら奇数学年の年は不利になる。だからオレみたいに4年、6年で入賞というパターンがフツーなのだ。5年生の時は記念参加みたいなもので、そもそも6年生に混ざって入賞している5年生自体が少ない。だから
(幾らなんでも今年は、にゃべの名は出てねーだろーな・・・)
と、発表された結果を見るのもお座なりだよ。ところが驚いたことに、嫌でも目に付く「最優秀賞」が5年生だ。しかも、そこには「死んでも忘れはしない名前」が、またしてもデカデカと刻まれているじゃねーか!
「高学年の部:最優秀賞 にゃべっち君(B小5年生)」
(うぬぬ・・・ アイツか!!!)
ああ、あの時の驚きよ!
あの女のような美少年ヅラが、今しも目の前に現れて
「オマエって、誰だっけ?」
と、あのバカにしたような「下目遣い」が、実に鮮明に目の前に浮かんださ!
しかも気になって、ずっと新聞の地方版で経過を追って行ったのが、これまた失敗でさ。
(まさか、全国審査まではいかんだろう・・・)
というオレの希望は、粉々に打ち砕かれた。
「B市最優秀賞にゃべっち君の作品は、全国審査へ進み入選しました」
という活字が嘲笑うように躍っていて、しばらくはこれが頭から離れなかった。
(やはり、ヤツはまだまだオレなど手の届かない、遥かな高みにいるのか?)
折角、新しい環境でここまで気分良く続いてきた平和が、一気に破られたようなもんさ。ま、オレも執念深いから、そこから立ち直ってまた新たな闘志に火を点けられたんだが。
そして、卒業・・・中学に進級だ。中学といえば『B中』ということで『B中』といえば、嫌でも真っ先に「神童にゃべっち」が頭に浮かぶじゃねーか。オレの頭の中では『B中』=『B小』、そして『B小』=「神童にゃべっち」だからな。いや、オレに限らず他の連中でさえ、そんな図式になるんだろうから、このオレなどは尚更よ。
当時の『B中』といえば『B小』と『H小』、さらに『Y小』の3校の連中が集まってくるわけだが、ウチの連中はそもそも眼中にないし『Y小』の連中のことはわからんが、まあ田舎者の集まりだろうくらいに思ってた。事実、向こうは一番田舎だし、生徒数も全然少なかったから相手にしてなかったな。となると、やっぱり『B小』だ。で、『B小』といえば「神童にゃべっち」だろ。しかも『B小』には、にゃべ以外にもマサがいる、ムラもいる、もろこもいる、となるわけだ。
まあ、オレも『H小』であれだけ飛躍して自信に溢れていたころだから、その頃は
(今更、マサやムラなど恐るるに足らん!)
くらいなプライドはあった。女子のもろこはよーわからんが、まあオーミヤ以上のものではないだろうと、勝手に決め付けていた。だってあんな女が、そうそういるもんじゃねーだろ?
しかし、それが「神童にゃべっち」となると、話はまったく別だ。
(にゃべなど、今のオレには恐るるに足らん!)
と強く思いたいところだが、さすがに「神童にゃべっち」の刷り込みだけは、まったく半端じゃなかったからな。あればっかりは、そうそう簡単に払拭できるもんじゃねー。
それでも
(ひょっとして・・・オレはもう、にゃべを超えてるんじゃねーのか?
少なくとも、いい勝負まではいってるハズだ!)
という自信というか、淡い期待があったことは事実だ。そんな、なんともヘンテコリンな気持ちのままで『B中』入学となったわけさ。
『H小』の英雄・・・だが、神童にゃべっちだけは仰ぎ見るような・・・中学生だから、いまさら「神童」云々なんてのはなかったが、入学早々に受けた学力テストは、まさに会心の出来だった。『H小』の時なら、トップは間違いなしというところ。それだけに、密かに
(オレが学年トップ?)
と期待していたものの、教師に呼ばれ告げられた結果こそは、死ぬほどの大ショックだったね。
「オイ、ゴトー!
オマエ、大したものだな!
学年で2番だぞ!」
だった。まあ、教師はなにもわかってねーから単純に喜ぶのも無理はねーが、こっちは
(オレの上に1人って事は・・・それはつまり・・・)
と確信していたからな。
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