2004/02/05

「神童」の魔力(ゴトー編)


 小学校時代は、一番憎たらしいのがオーミヤだったが、ゲンキンなものでこの時だけは



「トップはオーミヤであってくれ!」



と、祈るような気持だった。オーミヤに負けるのは悔しかったが、小学校時代にも負けているから今更ってとこだし、なによりこれで「にゃべを超えた」ことになるからな。そんな淡い期待も空しく



「『B小』にゃべっちがトップ!」



という情報が駆け巡った!



(やっぱり、アイツか!!!

やっぱり、アイツには勝てなかったか・・・)



大暴れしたいような腹立たしい思い、それでも憎たらしいんだけどちょっとだけ懐かしいような



(やっぱ、すげーヤローだ!)



といった複雑な思いが錯綜してね。こんなに腹立たしいのに、もう笑うしかねーなって感じだな。こうなると、中間テストも



(どーせ、アイツがトップに決まってるさ・・・)



と決め付けていただけに、発表された成績表でにゃべが2位というのはビックリでね。自分の6位も勿論ショックだったが、それ以上にあれはビックリ仰天したな



 アイツと約4年ぶりに顔を合わせたのは、サッカー部だった。無論、うちも『B小』もクラブ活動は4年生からだから、ヤツがサッカークラブに入っていたのは知るはずもない。全くの偶然なんだが、これぞ「天の配剤」と言うやつだな。



それはともかくとして、アイツを忘れるわけもないこっちとしては、合流初日からあの相変わらずの紅顔の美少年には、真っ先に目が行ったよ



(おー、いたいた。にゃべちゃんよ・・・オマエもサッカー部だったか・・・)



と感慨深いものがあったが、どうも向こうはこっちのことには、まったく気付いてはいないらしい様子だ。それも無理もないことで、なにしろこっちは『H小』転校後も、散々に「神童にゃべっち」を意識してきたとはいえ、向こうは一緒に遊んでいた時でさえ

「オマエって、誰だっけ?」

というくらいの適当なヤツで、元からこっちの一方的な認識なんだからな。なにしろ、向こうは「神童サマ」だから、マサやムラ、或いはもろこなど一部を除く同級生は「その他大勢」くらいの認識しかなかったんだろう。これは今、自分がアイツに近い存在になったから、この気持ちがよく理解できるのだ。



しかし



(他の連中は「その他大勢」であっても、オレは最早かつてのオレではないぞ!)



と、心の中で叫んでたよ。そう叫びたいのを堪えて



(今に驚いて、腰を抜かすなよ!)



とね。

(元々認識がなかったのもあるだろうが、それだけこっちが大変貌したからこそ、余計に気付いてないってのもあるはずだ)



とか、こっちはなんだかんだと必死で理屈をつけてたな。ところが、あの例の醒めたツラを見ていると



(オレ、昔『B小』にいたゴトーだけど・・・)



とは、なかなか名乗りにくい状況でね。仮に、そう名乗ったとしても

(ん?
ゴトー?
誰、それ?  ( ´Д`)はぁ?

程度の返事しか、期待できそうにねーヤローだし。どうせ、また無神経に傷付けられるのが関の山さ。



(こうなりゃ、いずれ地力で目覚めさせてやるぜ!)



とね。



(こっちから働きかけるのではなく、向こうが気付くまで知らん顔をしてやるわ。その時になって、吠え面かくなよ!)



と、この時にハラを決めた。



ところが意外なことに、ある時廊下でばったり出くわしたオーミヤが、出し抜けにおかしなことを聞いてくるじゃねーか。

「ねえねえ、ゴトー!

あんた『B小』のにゃべっちって子、知ってる?」

勿論、過去の事情を知らないオーミヤだから無理はないが、ごく軽く聞いてこられたのに反して、こちらとしては思わぬところで「にゃべ」の名を聞かされたから、驚くまいことか。



「にゃべっち・・・にゃべ・・・っち、かー。おー、懐かしいなー。オマエ、にゃべちゃんと同じクラスかよ?」



あまりの驚きに、思わず当時の「にゃべちゃん」という呼び名が出てしまって、ちょっとうろたえちゃったりね。



「にゃべちゃんとは、小さい頃はよく遊んだなー」



今や『H小』の英雄として、またオーミヤに対してはライバルとして



(にゃべちゃんには、よくイジメられた)



なんてことは、口が裂けても言えねーしな。もっとも、これに関してはオーミヤの方に過去の知識がないから、特に不審がられることも無く、なんと言うことのない確認だけで終ったのは、オレにとっては勿怪の幸いだった。それにな・・・そう、あの時のオーミヤの顔を見てると



(コイツ・・・にゃべに気があるな・・・)



なんてね。ピンと来たものさ。オーミヤってのは、あの通りクールを絵に描いたような女だから『H小』時代は



(オーミヤって、ゴトーに気があるんじゃないか?)



なんて言われたが、自分ではイマイチピンと来るものがなかったんだが。それがにゃべ」の名を口にする時に、なんともいえん嬉しそうな表情をしやがるんだ

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