小学校時代は、一番憎たらしいのがオーミヤだったが、ゲンキンなものでこの時だけは
「トップはオーミヤであってくれ!」
と、祈るような気持だった。オーミヤに負けるのは悔しかったが、小学校時代にも負けているから今更ってとこだし、なによりこれで「にゃべを超えた」ことになるからな。そんな淡い期待も空しく
「『B小』にゃべっちがトップ!」
という情報が駆け巡った!
(やっぱり、アイツか!!!
やっぱり、アイツには勝てなかったか・・・)
大暴れしたいような腹立たしい思い、それでも憎たらしいんだけどちょっとだけ懐かしいような
(やっぱ、すげーヤローだ!)
といった複雑な思いが錯綜してね。こんなに腹立たしいのに、もう笑うしかねーなって感じだな。こうなると、中間テストも
(どーせ、アイツがトップに決まってるさ・・・)
と決め付けていただけに、発表された成績表でにゃべが2位というのはビックリでね。自分の6位も勿論ショックだったが、それ以上にあれはビックリ仰天したな。
アイツと約4年ぶりに顔を合わせたのは、サッカー部だった。無論、うちも『B小』もクラブ活動は4年生からだから、ヤツがサッカークラブに入っていたのは知るはずもない。全くの偶然なんだが、これぞ「天の配剤」と言うやつだな。
それはともかくとして、アイツを忘れるわけもないこっちとしては、合流初日からあの相変わらずの紅顔の美少年には、真っ先に目が行ったよ。
(おー、いたいた。にゃべちゃんよ・・・オマエもサッカー部だったか・・・)
と感慨深いものがあったが、どうも向こうはこっちのことには、まったく気付いてはいないらしい様子だ。それも無理もないことで、なにしろこっちは『H小』転校後も、散々に「神童にゃべっち」を意識してきたとはいえ、向こうは一緒に遊んでいた時でさえ
「オマエって、誰だっけ?」
というくらいの適当なヤツで、元からこっちの一方的な認識なんだからな。なにしろ、向こうは「神童サマ」だから、マサやムラ、或いはもろこなど一部を除く同級生は「その他大勢」くらいの認識しかなかったんだろう。これは今、自分がアイツに近い存在になったから、この気持ちがよく理解できるのだ。
しかし
(他の連中は「その他大勢」であっても、オレは最早かつてのオレではないぞ!)
と、心の中で叫んでたよ。そう叫びたいのを堪えて
(今に驚いて、腰を抜かすなよ!)
とね。
(元々認識がなかったのもあるだろうが、それだけこっちが大変貌したからこそ、余計に気付いてないってのもあるはずだ)
とか、こっちはなんだかんだと必死で理屈をつけてたな。ところが、あの例の醒めたツラを見ていると
(オレ、昔『B小』にいたゴトーだけど・・・)
とは、なかなか名乗りにくい状況でね。仮に、そう名乗ったとしても
(ん?
ゴトー?
誰、それ? ( ´Д`)はぁ?
程度の返事しか、期待できそうにねーヤローだし。どうせ、また無神経に傷付けられるのが関の山さ。
(こうなりゃ、いずれ地力で目覚めさせてやるぜ!)
とね。
(こっちから働きかけるのではなく、向こうが気付くまで知らん顔をしてやるわ。その時になって、吠え面かくなよ!)
と、この時にハラを決めた。
ところが意外なことに、ある時廊下でばったり出くわしたオーミヤが、出し抜けにおかしなことを聞いてくるじゃねーか。
「ねえねえ、ゴトー!
あんた『B小』のにゃべっちって子、知ってる?」
勿論、過去の事情を知らないオーミヤだから無理はないが、ごく軽く聞いてこられたのに反して、こちらとしては思わぬところで「にゃべ」の名を聞かされたから、驚くまいことか。
「にゃべっち・・・にゃべ・・・っち、かー。おー、懐かしいなー。オマエ、にゃべちゃんと同じクラスかよ?」
あまりの驚きに、思わず当時の「にゃべちゃん」という呼び名が出てしまって、ちょっとうろたえちゃったりね。
「にゃべちゃんとは、小さい頃はよく遊んだなー」
今や『H小』の英雄として、またオーミヤに対してはライバルとして
(にゃべちゃんには、よくイジメられた)
なんてことは、口が裂けても言えねーしな。もっとも、これに関してはオーミヤの方に過去の知識がないから、特に不審がられることも無く、なんと言うことのない確認だけで終ったのは、オレにとっては勿怪の幸いだった。それにな・・・そう、あの時のオーミヤの顔を見てると
(コイツ・・・にゃべに気があるな・・・)
なんてね。ピンと来たものさ。オーミヤってのは、あの通りクールを絵に描いたような女だから『H小』時代は
(オーミヤって、ゴトーに気があるんじゃないか?)
なんて言われたが、自分ではイマイチピンと来るものがなかったんだが。それが「にゃべ」の名を口にする時に、なんともいえん嬉しそうな表情をしやがるんだ。
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