2004/02/16

予期せぬ指名(詐欺師の本性part5)



 ところが・・・である。翌日の午前中、例によってネットカフェ向かう途中にST社のT氏から電話が入った。

 「この前の案件だけど・・・是非、お願いしたいって言ってきたよ」

 「・・・」

 1日遅れの予期せぬ回答でもあり、またT氏を通して返事が返って来たのも意外であった。

 (ありゃりゃ? 
 なぜコイツから、連絡が来るんだ?
 畜生、Yめ!
 また人をペテンにかけやがったな!!
 人に携帯の番号まで訊いときながら、何で直接言ってこねーんだ?)

 などと考えていると

 「どう返事すればいい?」

 とT氏が、重ねて問うてきた。

 「やらないですよ」

 「じゃあ、断っとこーか?」

 「そうしてください」

 「わかった。また別件が出てきたら、連絡するよ」

 (もうオマエはえーわ!

 と、腹の中で思いっきり毒づく。

 (これで、また振り出しか)

 幾らかすっきり気分でネットカフェに入り、暫く篭る。昼食を挟んで再びネットカフェに篭り、ようやく出てきてから携帯の留守電をチェックすると、4件ものメッセージが入っていた。1件目は以前、静岡行きの話を持ち込んできたコンサルのT氏から

 「名古屋でネットワーク管理の案件が出てきたので、連絡乞う」

 というオファーだった。

 が、続いて2件目に入っていたTのメッセージには驚いた。

 オイ、話は全部、Yのヤツから訊いたぞ。テメー、ナメてんのか、このヤロー。オマエがウチを飛ばしてやろーって、Yに持ちかけたそうじゃねーかよ、オイ。オレはこんな話なんか、いつでもぶっ壊せるんだぞ、このー。このまま、タダで済むと思うなよ

 といった調子のわけのわからないメッセージが3件も続けて入っていたが、途中まで訊くうちにあまりの汚らしい口調に耐え切れず、ゴミとして削除した

 (なんだ、こりゃ?
 酔っ払ってんのか、コイツは?)

 放っておきたかったが、まだしつこく何度もかけてきそうなので、こちらから電話すると

 「おう! 
 今、どこにいるんだよ?」

 「なんですかね、あの留守電は?
 正直、聞くに堪えない内容でしたが・・・酒でも呑んでませんか?」

 「酒? 
 呑んでねえよ。

 それよか例のTの件さ・・・やっぱりやらないか?」

 先の留守電の、チンピラヤクザじみた凄んだ口調からは一転して、普段の苦笑いを含んだような温厚そうな口調のT氏に戻っているから、益々わけがわからないままに

 「それは、午前中に断ったはずですが。それはそうと、Yさんがなんか言ってきたんですか?」

 「ああ・・・すっかり全部訊いたぞ」

 と、得意げに息巻いた。

 「なにを言ってました?」

 「詳しくは言えないが、アンタの方からオレを飛ばして直接やらないか、と持ちかけられたと言っていた」

 (なんで、そういう話になるんだ?)

 と疑問に思いつつ

 「本当に私の方からそういう話を持ちかけたと、そう言ってるんですか・・・CSのYは?」

 「そこまでハッキリとは言わないけど、そういうニュアンスの事を言ってたよ」

 そして

 「それはそうと、さっきからなぜオレの電話には出ないんだよ?」

 と不満を漏らすが

 (それはアンタが、圏外のネットカフェに居る時に限って、電話してくるからだろ

 としか言いようがないが、この時のT氏の恨めしげな口調を訊くうち

 (どうもインチキくさいな、このオッサンは・・・

 と前後の話の飛躍からも、俄かに疑惑が頭を擡げ始めていた。もっとも、一方のY氏にしても、T氏ほどではないにせよ、前回のF社の件では

 (あれはボク自身も、直前までなんにも知らされていなかったんですよー)

 と、風呂上りのようなツルツルした顔を綻ばせてシレっとしていた経緯があるだけに、分裂気味のTほどではないにせよ、こちらもこちらで信の置けるような人物とまったく言い難かいのだから、困ったものだ。

 そして夕方になると、CS社のY氏から

 「先日のTの仕事の件ですが、月曜日からスタートとなりますのでよろしくお願いします」

 という電話が入った。

 (コイツめ! 
  一体、どういう神経してるんだ? 
  Tに内幕をバラしておきながら、今さらなに言ってやがる!!

 と憤りを感じ

 「はあ?
  Yさん、Tに一体、なにを言ったんですか?」

 と詰め寄ると

 「は? 
  何の事です、それは?」


 「惚けんでも、ちゃんと訊いてますよ。あの話をTにばらしておきながら、今更なに言ってんだか

 「ちょっと待ってくださいよ。どうもにゃべっちさんの言ってることが、良くわかりませんが・・・ Tさんが、あの話を知ってる・・・と言うんですか・・・?」

 「知ってるもくそも、自分で言ったんでしょうが。Tは、そう言ってましたよ」

 「ボクは、なにも言ってませんよ。僕が言う訳ないじゃないですか」


 「じゃあ、なぜTが知ってるんですか?
 他に誰が言うというの?」

 「いや、それはおかしいですけど・・・しかし、ボクがそれを言う訳がないですよ。じゃあ訊きますが、ボクがそんな事をして何のメリットがありますか?」

 (言われてみれば、確かにその通りなんだよなぁ。待てよ・・・)

 と考えるうち、ようやくにしてTの仕組んだ狡猾なカラクリが見えてきたのである。

 要するに、前日のこちらからの持ちかけで、疑心に駆られたTだ。翌日、(ネットカフェに篭っていたため)電話が偶々通じなかったのを、Y氏と謀らった意図的なネグレクトだと邪推したのに違いない。それがあの酔っ払いの戯言のような、留守電メッセージとなっていったのであろう。しかし、こんな幼稚な罠とはいえ、情けなくも気付くのが些か遅すぎたようだった。

0 件のコメント:

コメントを投稿