2004/02/08

静岡お誘いと女子大への行進


 2002年も終わろうかという12月の事。知り合いの社長T氏を通じ、富士通系列の企業から
 
 「静岡へ行って、最新のネットワーク環境でやってみませんか?」

 というお誘いがかかっていた。

 わざわざ静岡くんだりまで行って、仕事をする気はなかったから

 (生憎、マンションを借りる費用がなく・・・)

 などと情けない口実(半分は事実だが)を設けて断ったが

 「クライアントが乗り気で

 『ゆくゆくは社員になって、リーダー格として腕を振るって貰いたい』

 という事なもので・・・」

 と、なぜか熱を入れ

 「マンションの初期費用は、こちらで立て替えるから・・・」

 とまで言ってくれ、また現場となる会社がマルチホーミングなどの最新技術を導入しており『富士通のSEが、マンツーマンで責任もって指導する』というのも魅力だった(実際に逢ったリーダーは、まだ30そこそこだがMCSEやオラクルゴールドなどを所有し、真面目そうで恐るべき知識の持ち主だった)
 
こうした経緯から、かなり静岡行きに気持ちが傾きかけてきたころ、知り合いのH社長から

 「にゃべっちさんのような優秀な人材を、みすみす静岡に行かせたくないから、今度はいい話を持ってきたよ。端末ン千台だし、かなり大きな大学らしい」

 ほぼ9割方、静岡行きを決断しかけた時、突如として舞い込んできた大学ネットワークのお誘いは魅力充分。高級住宅街の星が丘にあって、有名な東山動植物公園を眼下に見下ろす小高い丘の上にキャンパスを構える女子大の正門前での待ち合わせだ。

 「正門ってのは、どこの事だ?」

 と、女子大の前をうろつく50代のT社長とにゃべっちのむくつけきコンビ(?)は、登校途上の女子大生らから、さぞかし胡散臭げに見られていた事だろう。

今回の採用は僅かに1人。競合は他の三社で、他の陣容はNTT系某社、大手メーカー系、大手商社O社系と、いずれも大企業ばかりである。
 
 「こりゃ、甚だ形勢不利ですな」

 とT社長を皮肉っておいて、いざ面接へと向かう。

 こちら側の元請というのがなぜか大阪の会社で、名古屋での事前ヒアリングで顔を合わせたのは腰の低い営業だったが、この日現れた新顔のもう1人の方は、ヤクザのような目つきの悪さと横柄な歯に衣着せぬ口調で、その厚かましい態度にキレかかっていた

 (なーに・・・そう度々、大阪から来るわけでなし、とにかく仕事さえ決まってしまえば関係ないはずだ・・・)
と、その場はぐっと堪えたものの
「関西、関西言うて、バカにすんなー」
と言いがかりをつける始末である。

 「バカになどしてませんが・・・私も、学生時代は京都に住んでたことがあるので」
「ほー、京都に?」

 「京都なんてクソ寒いとこ、人間の住むとこやないわ!」
 
と、ヤクザ者がこき下ろしていた。温厚な方の営業が

 「京都の大学と言うと、どちらで?」

 と聞いてきたので、大学名を言うと

 「オー、X大やと?
 めっちゃ賢いやんけ・・・」

 と、ヤクザ者も態度が変わった。面接前には、ヤクザ者が
 
 「面接は、緊張したらあかんで。
 面接に出てくるのは事務長いう偉い人やけど、自信を持ってPRをすればえーから・・・あとは、ワシらがフォローするよって」


 などと、くどくどと「心得」を説いていた。

 面接自体は特に変わったところもなく型どおりに終了したが、それなりに手応えを感じられたため

 (これは、案外と行けたかも?

 と密かにそろばんを弾いていると、面接後に事務長と打ち合わせをした営業が戻ってきて

 「面接は、なかなかえー出来やったわ。事務長の評価も高かったし、あとは競合の会社次第やから、我々が頑張る番やな・・・」

 と、同席していたヤクザ者も手応えを感じたか、少しばかり態度が変わっていた。

 ところが、翌日になってT社長から
「今朝、上(元請との間に1社入っていた)から連絡があったが、にゃべっちさんの評価がかなり高いらしくてね。最終審査の2人に残ったんだって。条件提示もあったから、これはほぼ決まりと考えていいんじゃないかな・・・」

 打診された条件は、思ったほどではなく相場よりやや低めの額だったものの、大学ネットワークと名古屋でも有数の立地環境もすっかり気に入っていただけに

 (これでどうやら、静岡へは行かなくて済むかも)

 と、皮算用を立てていた。

 ところが、それから待てど暮らせどT社長からは一向に連絡が来ず、ようやく1週間近くも経過したころになって

 「この前の女子大の案件は、どうも他社で決まったらしいよ・・・」

 「え?
 あの面接の感触では、落ちるとは考え難くかったんですが・・・」

 「う~ん・・・そうかな?」

 「競合他社はNTT系にF社系、それに大手商社系で、これに対してこっちは訊いた事のない(チンピラ崩れの胡散臭い)二流会社だったからでは?」

 と、思わず不満をぶちまけたものだったが、実はこの推測は的を射ていた。後に聞いた話では、NTT系の某社が相場を10万ほど叩いてかっ浚っていったとか。某社のこのダンピングは、その当時は業界で有名だったのである。
「これじゃあ、一体何のための面接か・・・」

 と、歯噛みしたところで後の祭り。

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