「神童」へのトラウマ（ゴトー編）

　それで、その時なんかもブランコに乗ってたんだけど、まだ小学2年で当時のオレはあまり大きくなかったから、小さいブランコに座ってたんだ。ま、2年生だから、それがフツーなんだが。ところが、ノッポのアイツが隣の高学年生が乗るような大きい方のブランコに、しかも立ち乗りで殆ど直角に近くまで揺らしてさ、そのまま大ジャンプだからビックリさ。

（おー、スゲーっ！）

てなもんで悔しいけど見てるだけでも恐くて、とても真似できるレベルじゃねーし。で、3年生になると、チャリでやってくるようになってた。それでジャングルジムとか、もうサルのように身軽に片手でスイスイと進んでいくし、チャリなんかもウィリーとか両手放しとか、道路の路側帯にあるブロックの上を走ったりとか、曲芸みたいなことばかりやってるわけ。

（こいつは、本当に人間か？）

と本気で思うくらいに、とにかくなにやっても澄まして簡単そうにやってのけやがるし、あらゆる点でまったくスーパーマンみたいなヤツだった。

　そうそう、その頃はよくウチに遊びに来てたよ。悪いことに、うちの近所にマツモトってワルガキが居てさ。そいつだけでも持て余してた上に、そいつの兄貴ってのがまた輪を掛けたようなワルでね。弟にくっついて・・・いや、正確に言うと弟を嗾けてうちに乗り込んで来ては、なにかと嫌がらせをするわけさ。 　なんでオレがターゲットになったかはわからんが、その当時としては珍しくオレのウチはハイカラで、子供にもケーキとかコーヒーなんかを出してたりしてね。多分、それが目当てだったんじゃないかな。こりゃ困ったと思っているうちに、公園で親しくなったヤツまでが乗り込んでくるようになった。

まあ、こっちは「神童にゃべっち」だから、もしかしたらあの憎たらしいマツモトの兄貴を撃退してくれるんじゃねーか、とか都合よく期待したんだけど、そうは問屋が卸さないってヤツでね。「撃退」どころか、あの不良兄貴と仲良くなりやがって、一緒にイジメを始めたのには参った。まあイジメというと誤解されそうだけど、今時のような陰湿なヤツじゃなくて、もっとカラッとした他愛のないものだったけどな。それでもマツモト兄弟のは、結構陰湿なところがあったけど、アイツはそーでもなかったな。元々、サッパリした明るいヤツだから万事がカラッとしてたし、そんなに憎くはなかったよ。で、にゃべの繋がりで、そのうちにムラとか色んなヤツがやってくるようになった。

マサ？

アイツはボーイスカウトとかやってて、休みの日はそっちの活動で忙しいとかで、うちに来たことは殆ど記憶がなかったな。ただ、ムラはイジメには消極的だったのか、直ぐ来なくなった。どうも、マツモトの兄貴と波長が合わなかったみたいだったな。ムラが来なくなった頃、当初はマツモトの兄貴も

「オイ、ムラカミはなんでこねーんだ！

アイツ、優等生ヅラしやがって、生意気なヤローだ！

早よ呼び出せ！！」

とか息巻いていて随分てこずったけど、途中からふっつり言わなくなってた。 　それも、アイツが

「ムラは少年野球にスカウトされて、休日は忙しくなったんだ！」

とか、上手く丸め込んでたらしい。多分、ムラの性格的に、マツモト兄貴のようなチンピラと付き合うのが嫌だったんだろう。正直、あの当時はマツモト兄弟は心底憎かったけど、アイツはそんなでもなかったな。確かに、アイツにもイジメられたりしたけど、あれはマツモト兄弟に調子を合わせてるだけで、根は優しいんだと思うこともあったし、実際それから暫くして来なくなったしね。で、アイツが来なくてはつまんねーってんで、すっかりみんなの足が遠のいちゃってさ。結局、最後までしつこく残っていたマツモトの兄弟も来なくなったから、やっぱりアイツが来てくれたのは、結果的によかったと思ってるよ。いや、本当だとも！

　3年の時に引っ越したのは、あくまで親の事情さ。イジメなんて、全然関係あるわけねー。元々、ウチのオヤジは転勤が多くて小学校に入る前にも転勤したし、また転勤があるということも聞いてたし、だからイジメもしばらく我慢していれば、そのうち学校変わるからと思ってた。で、3年の途中で『Ｈ小』に転向した時に、幼いオレは誓ったさ。

「イジメなんてかっこ悪いのは、もう金輪際ご免だ！

新しい学校では、絶対にナメられないようにしなければ！」

とね。今までは偶々、マツモトのようなワルの兄弟が近所にいたのが運の尽きだったけど、幸い引っ越し後はあんな嫌なヤローはいなくて快適だった。 　元々、勉強は嫌いじゃなかったしね。なんせ、それまでは休日になるとマツモト兄弟が嫌がらせに来るから、勉強なんてとても手がつかなかったが、あれがいなくなったから自然と勉強が捗って成績も上がった。それに4年生から、サッカークラブに入った。それで頑張ったら、転向早々にクラスでトップになったことが、結果的にオレを変えた。

（おー、オレって、やれば出来るじゃん）

それからはすっかり調子に乗って、それでさらに頑張るという好循環だね。で、余計に勉強が面白くなったし、親からも「もう転勤はない」と言われて、すっかり安心して取り組めたしね。