「ミグ~、何やってんだ~、このバカ。
ゴトーなんぞクソヤローに抜かれたら、ぶっ殺すぞ~」
と思わず声を張り上げながらも、一方では長身のゴトーの大きなストライドを巧みに操っての、あの鬼気迫るような追い上げには思わず手に汗を握り締め、不覚にも見惚れてしまった。
その走りは、むしろ
(ゴトーの野郎め・・・あれならイソガイとかいう化け物とも、いい勝負ができるんじゃ?
本当に変わりすぎだ・・・オレも、よくあんなのと互角の勝負が出来たものだな・・・)
と思うほどだった。
そしてレースは、いよいよ最後のホームストレッチに入った。
トップに立ってからも格の違いを見せ付け、誰一人追うもののないまま、巨体を軽々と操って颯爽とゴールテープを切ったのは、12組のイソガイである。あわや、最下位スタートのゴトーにも抜かれるかとヒヤヒヤさせた我が6組のミグは、最後のホームストレッチに入って遂に本領を発揮。
「なんでオレがアンカーなんだ・・・にゃべかグリよ、代われ!」
と文句を垂れていたミグだが、200mでもオグリやにゃべより速いのは勿論、陸上部員を凌ぐトップクラスのスピードの持ち主だけに
「一番速いオマエが、アンカーに決まってるだろ!」
と、皆から却下された。そのスロースターターのミグが、ようやく目の覚めるような怒涛の快進撃で大爆発。疾風のようにゴトーを振り払うや、あっという間にタケダをも抜き去り、あれよあれよの間に長い足を巧みに操って颯爽と2位でゴールを駆け抜ける。ミグに抜かれたタケダがなんとか3位を死守し、続く4位には最下位からスタートしたゴトーが、一気のゴボウ抜きでタケダに僅かの差に迫る4位に堂々と続いた。
「それにしても12組のイソガイと、3組のゴトーは凄い・・・もちろん、ミグも凄かったけど」
と、皆が呆気にとられる中
「でもウチのクラス、頑張ったわよ~。2位なら上出来、上出来。表彰もしてもらえるしね。ミグは当然だけど、にゃべもグリもさすがさすが。速かった。みんな、カッコ良かったよー」
さすがに級長の真紀が、優しい気配りを見せた。
「あの徒競走も、こっからだとにゃべが勝ったように見えたんだけどなー」(千春)
「ホント、どっちが勝ったかわかんなかったよね。稀に見る名勝負・・・いい思い出が出来たわ。昔のこともあるし、きっとにゃベがゴトーに華を持たせてあげたんだよ・・・」
という真紀のさりげない気遣いに触れた時
(なぜ、オレは負けた (;・_・)ノ
この時、改めて「敗北」の現実に心底、情けなさと悔しさが込み上げてきた。
この体育祭の間、真紀がにゃべの、そして千春がオグリのガクランを着て応援していたのがもっぱらの噂となり、皆から冷やかされることになった。
「アイツらー。何度言っても、凝りねーヤローどもだな・・・」
例によって硬派なオグリは怒りを隠さなかったが、思えば真紀の『B中』在学は今年度限りである。次年度からは、地区に新設の『C中』への転校が決まっている現実に、今さらながらハタと思い当たった。
(そういや、オーミヤやゴトーがこの『B中』にいるのも、もうあと半年しかないんだよな・・・
こんなタイミングで、新しい中学なんか出来なきゃいいのに・・・)
ツワモノどもが夢の跡・・・華やかな宴が終わり、釣瓶落としに落ちてゆく秋の夕陽が傾く校庭。
そこには、一人ポツンと物思いに耽る少年の姿が ε-(ーдー)ハァ
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