にゃべの場合
かつて体育祭(運動会)の花形種目といえば、徒競走とリレーであった。この徒競走で目立った活躍をするようなスポーツマンなら、成績トップの優等生にも負けぬくらいの人気者になったりするものだが、幸いにしてにゃべっちの場合は成績は言うに及ばず、こちらの方面でも幼い頃からすばしこい俊足で鳴らしていたのである。
小学生時代の6年間の徒競走では1位が4度、2位が1度。 唯一、スタートで躓いて大きく出遅れた3年生の年も、ビリから後半に猛烈な追い上げを見せ3位に食い込むなど、徒競走は得意競技であった。事実上の敗戦は、5年生の時に「超人ミグ」に競り負けた一度だけである。
さて、中学生となって初めて迎える体育祭。メインは徒競争だが、中学生ともなると皆の身体も大きくなり、またそれぞれが部活動で連日鍛えられて頭角を現してきている者もいたし、この年は他学区からどんな未知の強豪が紛れ込んでいるかもわからない、という波乱含みの大会であるといえた。三学区併せて12ものクラスがあるため、6人ずつ2組での競争となっていたが、リハーサルで顔を合わせたライバルの中には、ナントあの因縁浅からぬゴトーの顔が並んでいるではないか。
「あれ?
オイオイ・・・オレたち同じ組かよ?」(にゃべっち)
「うむ・・・望むところよ」(ゴトー)
と、早くもメラメラと火花を散らす、ライバル同士。
以前にも記したとおり、サッカー部では毎日練習前に校庭の外周を10周ほど走らされる事になっていたが、常に5~6番手を走るにゃべっちを尻目に、ゴトーは悠々とトップを争っていただけでなく、短距離やサッカーの技術においても、にゃべっちとゴトーはほぼ互角の力を競い合っていた。それだけに正直なところ、小学生時代に持っていた彼に対する揺るぎない優越感のようなものはすっかり消し飛んで、最早完全に「互角のライバル」と位置づけていたのである。
しかも『H小』の学生から訊いた話では、エリートに変貌を遂げてすっかり図に乗っていたゴトーは、カワイコちゃんには片っ端からちょっかいを出す一方で、ライバル関係にあったにゃべっちお気に入りの真紀に対しては「メガネザル!」呼ばわりをして、扱き下ろしていたと言うではないか。さらに悪い事に真紀の方では、学年のヒーローであるゴトーに「満更でもなさそうだった」とも伝わるから、尚更許せないところである。
(『H小の神童』ゴトーといえど、しょせん本物の神童にゃべっち様の前では“月の前の星”でしかないという現実を、真紀らの目にしっかり印象付けてやらねば!)
と、闘志を盛り上げるにゃべっちであった (≧Д≦)ノ オー!!
ゴトーの場合
絶対に負けられない事情は、オレの方も同じだ。『H小』に転校後は、4年間で1等賞が3度。残る1度は運悪く学年一の俊足を誇る、陸上クラブのエース・イソガイと同じ組になった。とはいってもイソガイに喰らいつき、接戦に持ち込んでどうにか格好はついた。
「英雄」に惨めな完敗など、絶対に許されないのだ!
イソガイには別として『H小』の生徒はみな
「ゴトーが負けるなんてことは、ありえない」
と思っているハズだ。オレとしても『H小』の連中は勿論、よく知らない『B中』や『Y中』の連中といえど、イソガイ以外は誰が出てこようと負けるとは思っていない。ただ「一人の例外」を除いては・・・
そうして迎えたのが『B中』での体育祭だ。人数的にもこれまでの『H小』の時の3倍以上の500人に膨れ上がっているだけに、注目度は満点だ。三学区併せて12ものクラスがあるため、6人ずつ2組での競争となっていたが、リハーサルで顔を合わせたライバルの中には、ナントあの因縁浅からぬ「神童にゃべっち」の姿があるではないか!
(よもや、よりにもよって『たった一人の例外』と、同じ組になろうとは!!)
正直、嬉しいような困ったような、実に複雑な心境だった。アイツとは3年以上離れていたとはいえ、サッカー部ではこっちは他の誰よりも密かに注視していたから、アイツが相変わらず足が速いことは、勿論よく知ってた。グラウンド10周とか、長距離は確かにオレの方が圧倒していたとはいえ、短距離となると話が別だ。サッカー部では短距離の競争はしないから、どっちが速いのかはやってみるまでわからないにしても、他の連中のように楽に勝てる相手でないことは間違いない。なにより、あの物心ついたばかりの『B小』1年の計測時の圧倒的な速さが、未だに脳裏に刷り込まれて鮮烈に残っていたし、相変わらずあの細い体で独特のカモシカのようなしなやかな走りは、一度見たら忘れられるもんじゃないよ。
だけど正直言って、やっぱり嬉しい気持ちの方がより強かったな。よりによって、こんなにたくさんいる男子の中で、同じ6人の中に入ったところに、それこそ「運命」を感じたよ。
(これは神が与えてくれた、リベンジのチャンスなんだ!)
ってね。この500人が見守る晴れの舞台で、この
「神童にゃべっちより、ゴトーの方が速いんだ!」
というところを、みなの目に焼き付けてやるんだと。これから何度も繰り返される試験とは違って、この競争は一度しかないチャンスだ。しかも500人の観客が、証人として目の前で見ている。ここで、すっきり決着をつけてやることが出来れば、オレの長年のトラウマもキレイサッパリ払拭できるわけだ。
(こんな願ってもないチャンスを与えてくれた神に感謝だ!)
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