2004/02/03

「神童」の偉大さ(ゴトー編)


 おまけにサッカーの方も、クラブのコーチから



(オマエは才能がある・・・将来のエースだ!)



なんて言われて、すっかりその気になったしで益々、学校生活も面白くなってた。



こうなると、なんにでも積極的に取り組みたくなるものだから、ゲンキンなものよ。ほら、ゲームなんかでも下手なうちはつまらんけど、上達するとドンドン面白くなっていくだろ。あれと同じで、なにより



「ここには、かつてのオレを知ってるヤツが1人もいない!」



というのが、一番嬉しいことだった。



(もう一度、まっさらなとこからやり直せるんだ!

だったら、なりたかった自分に生まれ変わってやろうじゃねーか!)



とね。その後は勉強にスポーツにと快進撃を続けて、気付けば自分でもビックリするような『H小』のヒーローさ。まあ、誰かみたいに「神童」と呼ばれる域までには達しなかったがね。それでも「過去」を知らない連中は、みんな 「ゴトー君、ゴトー君」と呼ぶし、最早「同級生でゴトーを知らない者はいない」という勢いだ。



オマエって、誰だっけ?と雑魚扱いだったいつぞやとは、エライ違いだわな。



(よーし、オレも「神童」になってやろうじゃねーか!

そうして、いつかどこかでアイツを見返してやるのだ!)



と一念発起して、さらに頑張った。その頃は



(オレも「神童」になれる!

アイツは決して、手が届かないところにいるわけじゃねー!)



などと本気で思ってたし、一番充実していたころだったな。ところが、これがそう簡単ではないことがわかった。それを思い知らされたのが、オーミヤの存在さ。オレの描いた「神童計画」は、結果的にあの憎たらしい女にぶち壊されたようなもんさ (-o-)ノ ┫オリャ



確か『B小』にも「もろこ」とかいう優秀な女子がいたけど、こっちにも「オーミヤ」という優等生がいたんだよ。そう、あれはにゃべやマサのような眩しいオーラを発するような「天才」ではなく、努力家の秀才タイプだった。



(よーし、人生やり直しや!

オレも、ここでにゃべ様になってやるぞー!)



と本気で張り切っていたオレにとって、憎っくき目の上のタンコブはあのオーミヤのメガネザルよ!

 

もっとも念願のトップには立ったものの、それからが大変だったな。これはトップに立って始めてわかったことだが、トップを維持するってのはトップになることよりも、よっぽど難しいことなんだと。それまでは一旦トップになってしまえば、後は楽なもんだと思っていたわけ。ところが、そーじゃねーんだな。しかもトップが続くと、周囲からもドンドンそれが「当たり前」のように見られてしまうから、これが結構なプレッシャーさ。



オレなんかも「英雄」と祀り上げられた当初こそ、天にも昇ったようないい気分だったが、そうなるともう落ちるわけには行かん。しかもトップを維持しながら「オレには当然」というポーズを取らないといかんから、うっかり喜んでる姿も見せられん。実際、「英雄」とか「神童」の落ち目ほど、惨めなものはないぜ。  



これは、なったものにしかわからんだろうが



(いつか落ちるんじゃねーか、次は落ちるんじゃねーか?)



って凄い不安に襲われて、酷い時には変な悪夢に魘されて寝られなかったりね。そういう意味では、真に勉強が好きでコツコツと地道に努力するオーミヤの方が、オレなんかよりはトップに相応しいんだろうな。だからその時になって、ずっとトップを独走していたアイツの偉大さが、初めてヒシヒシと実感できたわけよ。しかもアイツの場合は、まったく勉強をしないどころか授業中もふざけてばかりいて、ろくに話も聞いてないと来ている。それでいて、いつもさも当然というツラで「落ちる恐怖」などは、爪の先ほども無縁そうなヤツで、こせこせしたところがまったくない



(やっぱり、アイツは例外的な存在なんだ!)



と、何度思ったことか!



 その後は幸いにして身長もグングン伸びてくれたし、気付けば後ろから23番目と大きくなってた。おまけにスポーツも、何をやっても殆ど誰にも負けなくなっていた。イジメ対策で、引越し後は空手道場にも通ったお蔭で腕力も付いた。  ただ、これは翌年にサッカークラブに入ったから長続きはしなかったが、そのころはもうすっかり自信の塊みたいなもんさ。転校して間もない頃に、ガキ大将みたいなのに喧嘩売られて、空手でやっつけてからは



「ゴトー君って、空手をやってるんだって・・・」



という噂が広がり、それからは誰も喧嘩を売って来るような者もいなくなった。もう、まさに「天下を取った」ようなもんさ。しかし、勉強だけはオーミヤという強力なライバルがいたから、誰かみたいにトップを独占というわけには行かなかったし、結局あの女のせいで「神童」にはなれなかったんだけどな。もっともオレの知ってる「神童にゃべっち」は、あくまで小学3年生の途中までだから、その後もずっと神童のままだったかどうかはサッパリわかってねーんだけど。

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