2004/02/01

「神童」の衝撃(ゴトー編)



 中学最初の試験、中間テストの結果はまったく不本意だった。トップの「ナカムラ」というのは、これまで縁のない『Y小』の出身だからまったく知らなかったが、3位のオーミヤは同じ『H小』で学年トップを争ってきたライバルだ。さらに4位のもろこと5位のムラは『B中』でも同じクラスになったこともあるし、それぞれ「有名人」だったから、なんとなく記憶にあった。まあ「有名人」とはいっても、3年以上前の2年半のことだから記憶も朧だったが・・・しかし「にゃべっち」に関してだけは、忘れもしない特別な思い入れがあったぜ。

神童にゃべっち!

およそ『B小』の生徒で、その名を知らぬ者はいない3年途中で『H小』に転向し、その後『B中』から離れていたオレでも「神童にゃべっち」だけは、忘れるわけはなかったさ!

 にゃべとの邂逅は、小学1年生の時よ。40人いるクラスの中でも、あのにゃべとマサ、それにムラの3人だけは、とにかくズ抜けて光っていたな。まず算数ドリルで見せた、あの計算の早さには心底舌を巻いた。クラスで5番前後に位置していたオレですら、マサの計算の早さだけでも充分驚いたが、さらに遥か上を行っていたのが「神童にゃべサマ」よ。なんせ、こっちが問題に目を落とした瞬間には、もう手を挙げてやがるんだから、ちょっと信じ難い早さだった。しかもにゃべもマサも、揃って女子も顔負けな水も滴る美少年と来ているから、なおさら始末が悪いやね。すっかり戦意喪失さ。

まったく「世界が違う!」とはあのことだと、子供心に早くも世の中の理不尽さというか、強い挫折感を感じたもんよ。あれは到底、努力で追いつくようなレベルじゃなかったしね。さらに国語で教科書朗読をやらせれば、にゃべとマサ、ムラの3人だけは、どんな難しい漢字でもすらすらと読んでいくわで、こりゃとても敵わんと、すぐに見切りをつけるしかなかったのも無理は無い。

体育の授業で「50m走計測」があったのは、そんな時期だった。あれは、みなの注目を集めた大イベントだったな。そんな中で、トップバッターで登場したクラス一チビのマサが、いきなり「9.0」という好タイムだ。その後、数組が走るが早いもので9秒台後半、遅いものはたっぷり10秒以上と、半分くらいを終えてマサの「90」が図抜けていた。ここで登場してきたのがムラで、ヤツはなんと「83」という化け物じみたタイムだ。そんな最悪の状況で、オレの出番が来たわけだ。どうも巡り合わせの悪さというか、そういうものがどこまでもこのころのオレには付いて回ってた。

(そんなのも、みんなにゃべのせいだ!
アイツがいるから、まったくオレの人生はメチャクチャだ!)

と思ってたよ (*≧ω)ノ-=≡≡卍

 なにしろ初めての計測だから、自分でもどのくらいで走れるのかさっぱり解らなかったが、結果は「87」という微妙なタイムさ。本来ならかなり速いというべきだろうし、あの優等生のマサにやっと勝ったという興奮で背筋がぞくぞくした。が、しかし一方ではムラという凄いのが出てきて、これにはまったく完敗だからな。その後は何組も走ったが、ムラのタイムは勿論、オレのタイムを上回る者もいないまま、遂に最終組でみなさんお待ちかね、神童サマ登場ってわけさ。

(いくら神童だからって、足まではそんなに速くねーだろ!)

と、心の中で叫んでいたよ。

(オレのタイムを超えるなー!)

とね。今でもよく覚えているが、あれは初めての「50mタイム計測」だから、担任教師も普段は持っていないストップウォッチなんか持って畏まってる。  だから、小学1年の子供とはいえ

(自分の能力が、初めて数値化されるんだ・・・)

と、なんかエラく緊張したんだよな。他の連中も程度の差こそあれ、どれも緊張した顔だったが、アイツだけは例によってまったく緊張してなさそうな、いつもの涼しい顔をしてるじゃねーか。あれには驚いたし、それだけでも驚きだったが、いざ走ったらこれがまた速いの何のって。もう、タイム聞く前から

(こりゃ、全然次元が違うわ・・・)

と呆れたもんよ。しかも例によって、他の連中はみな醜く顔を歪めながら必死の形相だったのに、ヤツだけは例の涼しい顔で走ってやがった。余裕綽々、てな感じでね。それで「82」だから、こっちはもうただただ

(こんな凄いのがいるもんだ。こいつは、特別なんだ!)

と思うしかねーわな。

 そんなアイツと、なんで親しくなったかって?
あれが「親しい」と言えるのかどーか、まあウチにしょっちゅう遊びに来ていたのは事実だけどね。

きっかけ?
きっかけはなー、近所によく行く公園があって、その日もいつものようにブランコに乗ってたら、アイツが現れたのさ。うちの近所だから向こうは遠くて車で来たらしく、オヤジさんが一緒だった。で、もう夕方で帰ろうかというところに

「あれ?
オマエって・・・」

と、アイツが声を掛けてきたのさ。2年生の時で、その年はクラスが違ってたけど、1年生の時に一緒のクラスだったことは、かろうじて覚えていたらしい。  が、どうもオレの名前を覚えてない・・・覚えてないというか、最初から知らなかったんだろうな、きっと。で、オヤジさんに

「あの子は、誰?」

なんて聞かれて、珍しく困った顔してな。

結局

「なあ・・・オマエって、誰だっけ?」

と聞いてきた。あれは、子供心にも超ショックだったよ。こっちは「神童にゃべっち」で、嫌というほど心の奥底にまで刻印を押されたような相手から

「オマエって、誰だっけ?」

だからな。まあ、当時の2人の能力差とか関係とかからしたら、無理もないんだろうがな。

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