が、その後もやはり「ゴトーカズマ」という名前が、喉に刺さった子骨のように、どうにも気にかかる。
(ハテ、ゴトー?
「ゴトーカズマ」って名には、どうも見覚えがあるんだがなー。確かサッカー部にも、そんな名のヤツがいたような・・・)
と、記憶の糸を辿っていると
「にゃべも、ゴトーは良く知ってるでしょう?
元々『B小』から転校してきたコだし」
と真紀に触発され
「ん?
『B小』から転校って・・・そんなヤツいたっけな?
まてよ・・・って事は、もしやあのゴトーか?
しかし見た感じからして、全然違うしなー」
「なんだ。
違うコなの?」
「いや。やっぱり、アイツなのかなー?
カズマなんて名は、そうザラにはいないだろうからな。なんとなく、記憶が蘇ってきた・・・しかし変だな・・・オレの知ってるゴトーは・・・」
「うん、にゃべの知ってるゴトーは・・・?」
4年前。新興住宅街、鶯山の急坂の途中にあったゴトーの家の近くに、マツモトというデキの悪い同級生が住んでいた。この悪童が、やはりいつもゴトーの家に遊びに来ていたため、すっかりにゃべっちの悪友の座に納まってしまった。そして2人でゴトーの家に遊びに行くと、ケーキなどをご馳走になりながらも、親の目を盗んでゴトーをイジメて遊んでいたのである。
当時は、ムラカミも一緒に遊びに来ており、いびられるのはもっぱらゴトーの役どころだ。それだけにゴトーにとって、にゃべっちは恐らくは思い出したくはないが、さりとて忘れ難い存在であることもまた、容易に想像が出来た(勿論、イジメといっても遊びのようなもので、決して陰湿や深刻なものではない)
ゴトーが『B小』に居たのは3年生の途中までだから、にゃべっちの記憶の中にあるゴトーも当然そこで止まっていた。当時のゴトーは取り立てて背も高くはなく、成績も精々クラスで4~5番手といったところだったから、学年トップが指定席だった神童にゃべっちと、それに次ぐ存在のムラカミには視野の端っこにすら入ってなかった。またスポーツでも、それほど目立った活躍をしていたという記憶もない。どれもが平均以上ではあるが、特にこれといって目立つような生徒ではなかったのだ。
ところが、サッカー部のゴトーは背が高く逞しい外見ばかりではなく、グランド10周競争ではトップクラスの常連で、常ににゃべっちよりも速かった。そして、中間テストでも学年6位という好成績だから、これがあの『B小』の目立たなかったゴトー少年と同一人物とは、まったく気付かなかったとしても無理はない。なにより、成長期の3年間を見ていなかったのに加え、見違えるほどに逞しく大きくなっていたのだから、まさに「士別れて三日なれば刮目して相待すべし」そのままであった  ̄_ ̄;) うーん
(ゴトーカズマ・・・確かサッカー部にも、そんな名のヤツがいたような・・・)
確かに、そうなのだ!
サッカー部といえば1年生だけでも優に10人を越える大所帯だから、全員の顔までは記憶していない。『B小』サッカークラブに属していた連中と、中学からサッカー部に入部した2人を加えた『B小』組の顔は、もちろん覚えている。残るは『H小』、『Y小』の連中だから、印象が薄いのは仕方がない。が、そんな中でも『H小』のゴトーはイチカワという男とともに、かなり印象強かった。
サッカー部といっても1年生は基礎練習が中心だけに、まだあまりボールを持たせてもらえない。毎日の練習の始まりはグランド10周で、ビリから3人はそれぞれ1周、2周、3周を追加で走らされた。短距離は得意だったにゃべっちだが長距離は苦手だけに、このグランド10周競争は最も苦手だ。1500m走では、スポーツテストでも「A級」を叩きだしていたものの、グランド10周競争は地獄の苦しみとしかいいようがない。この競争で、常にトップを争っていたのが『H小』組のイチカワとゴトー、そして『B小』出身のムラサキといった顔ぶれだった。
にゃべっちは、このトップクラスに次ぐ2番手グループで、大体4~5番手辺りを走ることが多かっただけに、常にトップを争っていた3人には一目置いていた。そのトップクラスの一角を占めているゴトーが、かつて『B小』に居たあのゴトーだったとは!
「うん?
にゃべの知ってる、ゴトーは・・・?」
と考えが煮詰まりかけたところで
「ねえ、なになに?
ちょっと、面白そうじゃないの?
一体、何の話?」
いつの間にやら、ヤジウマの千春が会話に割り込んできていた。
「『H小』にも、にゃべみたいな『神童』が居たって?」
「そうそう、この前タカから訊いたにゃべの話よね・・・さすがにそこまで凄くはなかったけど、ちょっとあれに近い感じの存在だったよ、ゴトーは。小学校の時も、A市の「読書感想文コンクール(高学年の部)」で「優秀賞」とか「優良賞」とかも獲ってたしね。まあどっちにしても、全国入選のにゃべから見たら大したことはないんだろうけど・・・」
「そうそう、この前タカから訊いたにゃべの話よね・・・さすがにそこまで凄くはなかったけど、ちょっとあれに近い感じの存在だったよ、ゴトーは。小学校の時も、A市の「読書感想文コンクール(高学年の部)」で「優秀賞」とか「優良賞」とかも獲ってたしね。まあどっちにしても、全国入選のにゃべから見たら大したことはないんだろうけど・・・」
気のせいか、ゴトーの話をする時の真紀の目は、潤んだように光って見えた。
「しかしなー。3年生の時はオレ、アイツと同じクラスだったし仲も良かったんだけどなー。あの鶯山の家にも、毎日のように遊びに行ってたんだぜ」
「ゴトーねー。そういえば、そんなコもいたっけ?
私も、あんまり憶えてないけど・・・」
と、千春の印象にも薄かった。
「ホント?
へぇ~、そうだったんだ・・・そんなに仲良かったんなら今度ゴトーに、にゃべの事、訊いとくわよ」
「いいよ、止めとけって・・・どうせろくな事は言わねーだろうから」
しかし「過去の事情」などは知る由もない真紀が、気を利かせて早速、相手にとっては忌まわしい名を携えて、そそくさとアプローチにいってしまった。