好天の下、満開の桜をしばし堪能してさらに山を登っていくと、今度は「上千本」から「一目千本」を望む。金峯神社を通り、なおも登って行くと「→西行庵方面」という看板が眼に入った。
<金峯神社から、さらに山中に分け入った所にある小さな庵。『新古今和歌集』の代表的歌人の一人である西行が、俗塵を避け3年間幽居した場所と伝わり、庵の中には西行像が安置されている。西行が
「とくとくと落つる岩間の苔清水汲みほすまでもなきすみかかな」
と詠んだ苔清水も近くに残り、西行の歌碑や西行を慕ってここを訪れた芭蕉の句碑が立つ。付近は桜、紅葉が美しい>
「西行庵」といえば、観光のガイドブックなどにも必ず出ているポイントでもあり、西行法師がしばらくの間隠棲していたと言われるだけに、興味も沸こうというものだ。が、結果的には「折角ここまで来たのだから・・・」と、その「西行庵」へ向かったのが失敗だった・・・
それまでは、どこまで歩いても「一目千本」という桜ばかりの景色に包まれていたのが、道標に従って山上ヶ岳への道を逸れて谷筋に入ると、竹林に囲まれた鬱蒼とした地域に入る。人一人通るのがやっとという道幅であり、道を踏み外すと奈落の底という感じで(反対側から人が来たら怖いな・・・)と危惧しなければならないくらいの細い道だったが、薄暗い竹林の中には人影はまったく見えない。
この竹林に入る前から、実は腹痛に見舞われたのだったが、薄汚い公衆便所の前には数人の人影があったため
(まあトイレの一つや二つは、この先のどこかにあるだろう・・・)
と楽観視して西行庵に向かっていたので、竹林に入った辺りからは
(こりゃ、まずいな・・・どう見ても、便所なんてどこにもなさそうだぞ・・・)
とはいえ今更引き返すには億劫に感じられるほど、既にかなりの行程を歩いて来ている事でもあり、また《西行庵まで約2キロ》とか表示が出ていたため、ともかくも先を急ぐ事に決めたのだがいよいよ、我慢が出来ないところまで来ていた。
(うむむ・・・こりゃ参った参った。まさか、幾らひと気がないとはいえ立小便ならまだしも、大の大人が野xxというわけにもいかんしなー・・・)
そうしてなんとか腹痛をこらえ、しかめっ面で歩いていくうち《西行庵まであと1キロ》という標識が目に入った(実際にこういう標識だったかは、記憶が曖昧になっている)
(もう少しだ・・・1キロくらいなら、なんとか我慢出来るぞ・・・)
と、自らを励ましながら歩を進める。ところが・・・いくら歩けど歩けど、西行庵などは「サの字」すらもサッパリ見えてくる気配すらないではないか・・・
(どうなってんだ、こりゃ?)
と思ううちにも便意はさらに嵩じて来ており、最早限界に近いところまで来ていた。
(どうせ誰もいないんだから、この際・・・)
と、よからぬ事を考なければいけないくらいまで事態が差し迫って来たその時、前方にジイサンらしき猫背の小柄な姿が杖のようなものを突きながら、ヒョコヒョコ歩いているのが目に入った (; ̄ー ̄)...ン?
そして
「オーイ、もう引き返すぞー!」
悲壮な感じの怒鳴り声が、聞こえてきたのであった・・・
「だってあと1キロって書いてあるから、もう直ぐだよー。もう直ぐなんだってばー」
それに応じて今度は、比較的若そうな女性の声が少し先の方から還って来た。
どういう関係かは知る由もないが、どうやらこの年齢の離れた2人は連れらしい。
「さっきから1キロとか書いてあるけど全然つかねーし、この標識はインチキだろ・・・ワシャ、もう帰るからなー」
実際にジーさんが怒るのも無理はなく、既に1キロどころかどう考えても2キロは、優に歩いているはずなのだったが・・・それはともかくとして、ジーさんが戻ってくるのはまずい。いかに相手がジーさんとはいえ野xxを見つかったらマズイし、ましてやその後に女性が戻ってきた日には・・・
(いよいよ地獄だ・・・)
と呻きつつも仕方なく我慢をして、苦痛に顔を顰めながら尚もしばらく歩を進めて行くと
「ワシャ、もう沢山だ・・・こんなにまでしてみとーないわ」
という断末魔のような、絶叫が響き渡った。
そ、その直後・・・
「オジーちゃーん! あったー、あったよー」
という女性の快哉を叫ぶような嬉しげな弾んだ声が、竹林にこだました。かれこれ、1時間近く歩いたろうか。不思議な事に
(これで、やっと目的を達せる・・・)
と安心すると便意の方は幾らか治まったのは、なんとも皮肉なものである(* ̄m ̄)ブッ
ところが、どう見てもそれ(西行庵)らしき建物は見当たらず、便所のような薄汚れた掘っ立て小屋がポツンと一つあるきりなのだ・・・
(おや? どうなってんだ?
ま、何はともあれ便所に入って出すもん出してから、じっくりと検分や・・・)
と、オンボロの掘っ立て小屋に近付くと、しかしそれは公衆便所には非ず、それこそはまさに延々一時間近くを要し、便意と格闘しながらの難行苦行を強いられた末に、ようやくの事で辿り着いたお目当ての《西行庵》なのであった (゚c_゚`;)ナンダヨ、ソリャ!!

画像
http://small-life.com/
(追記)結局、西行庵はポツリとその掘っ立て小屋が一つあるのみで他には便所もなにもなかったが、いつの間に到着していたのか意外にも物見高い観光客数人の姿がチラホラと見られた。そして帰りは便意が幾らか治まったせいか、或いは道がわかっていたせいか、随分と長い道程に感じた来る時の半分程度の所要時間で帰還し、無事に不如意をする事なく公衆便所に駆け込む事が出来たのであった 柱| ̄m ̄) ウププッ
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