『B中』では、入学早々に『知能テスト』及び『学力テスト』が行われるのが、慣わしである。その結果を受け、生徒一人一人が隣の別室に呼ばれ個別面談を受ける段取りだったが、底意地が悪く毒舌並ぶ者なき鬼教諭として知られるヒグチ女史から、密室でコッテリと油を絞られるのか、面談を終え戻ってくる学生は一様にお通夜帰りのような沈んだ顔だった。気の弱い女生徒の中には涙ぐんだ顔も見られ、順番待ちの学生らの間にはいやが上にも恐怖感が増していく。そんな重苦しいムードの中、いよいよ神童にゃべっちの順番がやって来た。
「散々、ボロクソに言われたよ!!」
と、何人かの男子生徒からも訊かされていただけに、それなりの心構えをしていったが、案に相違してヒグチ女史はこれまで見た事のないような、穏やかな表情で待ち構えていた。
「オ~!
来た来たー。
にゃべ、オマエって、すっごい賢いんだなー。さすがの私も、言葉がないわ・・・」
と、いきなり開口一番から、こんな調子だからビックリだ。
「小学校の先生から『東海』(名古屋の有名私立中学で中部・東海圏随一の名門として有名)へ行けと奨められんかったか?」
「まあ、何度か言われましたが・・・」
「だろうな~。なんで行かんかったの?」
「なんでっても・・・まあ通学も大変だろうし、試験も嫌いだったし・・・」
「バッカだなぁ。あははは。そうかぁ、試験が嫌いかー?
でも勿体ないよな~。私が小学校の先生だったら、絶対に『東海』へ入れたくなるよなー」
とか言いながら、なにやら書類をパラパラと捲り始めた。
「小学校から貰った内申書を見たけど、ホント凄いね。こんなに優秀なのは、私も記憶にないわ。でも、この中に
『並外れた能力を持ちながら、惜しむらくは大の勉強嫌いで』
と書いてあるんだけど、これは本当?」
「まあね・・・勉強は、したことないし」
「まったく勉強をしたことがないの?
それで、この成績かあ・・・」
と、大きく溜息をついた。
「それで、この間の学力テストなんだけど・・・アンタは学年トップなんだよね。というより、殆ど満点と言っていいくらいの点数でダントツなんだよ。あと『知能テスト』に関しては、結果を公表してはいかんという決まりになっているから言わないけどね。これがまた、ビックリな結果わけよ。知能テストの結果から見たら、学力テストは満点が取れそうなものだけど?」
『B小』では、トップが当たり前だったにゃべっちとはいえ『H小』と『Y小』出身者を含めた、総勢500人の中のトップと訊いては、さすがに嬉しくないハズはなかった (  ̄ー) ヨコガオニヤリ
「しかし、オマエんとこは、ホントに変わっとるよな~。兄さんのマッハは陸上部の大エースで有名だったし、県大会優勝の時の立役者(アンカー)だろ。
今年3年生になった姉さんは、オマエやアニキに比べるとデキが良ーないけどな。しかし・・・なんといっても印象強いのはレーコだよ、レーコ。アイツは、まあ・・・」
といって、鬼女教師は大きく顔を顰めた。
「あのレーコって女、確かアンタのねーさんだったよね?」
「まあ、一応・・・」
「もう何年になるかなー?
随分前だけど、アイツだけは今でもよー憶えとるわ。
何しろ忘れようにも忘れられん、札付きのワルでねぇ。当時、私もまだ若かったけど、アレは他の先生たちもまったく持て余して、匙を投げてたわ。あれがいかんかったんだなー。
この前、偶然に道であったんだよ。挨拶もせんと、知らん顔しとるから
「おい、レーコ!
挨拶くらいしてかんか~い」
と言ってやったんだよ。
そしたら、なんて言ったか?
『まだ生きとったのか、鬼婆ぁが!
さっさとくたばれ!!!』
ときやがったよ。
それで今度は、またどんなのが来るのかと思っとったら、これが500人のトップってんだから、まぁ本当になんという家系だろうかね・・・」
「レーコ」というのは、言うまでもなくレーコ姉のことだ。以前にも記した通りこの人が中学時代から、いわゆる「スケ番」として地区の隅々にまで、その悪名が轟いていたという話は母からも何度か訊いてはいたが、これほど有名だったとはと、この時初めて実感したものだった。
それはさておき個別面談終了後、ヒグチ女史から
「入学時に行った学力テストで、ウチのクラスから上位10人に入った好成績者が2人も出たのは、実に誇らしい事だ。にゃべが学年500人中のトップ、もう一人は女子のオーミヤでこちらも全体で4番という立派な成績だから、皆もこれからこの2人を手本として頑張っていくように」
という発表がなされた。
クラスの半数近くを占める『B小』出身者の間から
「やっぱ、にゃべはスゲーな。
こん中でも学年トップって、まったくどんな頭してんだ」
という声が、澎湃と沸きあがった事はいうまでもない (*Φ皿Φ*)ニシシシシ
また同じように『H小』出身生らの視線は、銀縁眼鏡が涼やかな感じの見るからに賢そうな、一人の女生徒に集中するとともに
「さすがは真紀・・・」
という声が、あちこちから聞こえた。そうして、いきなり絶頂からスタートした中学生活だ。
「やっぱオレって、稀に見る天才だった?」
と「学年500人のトップ」に、すっかり酔いしれるにゃべっちであった (´0ノ`*)オーホッホッホ
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