「ボク自身はこの前の話し合いに同席して、にゃべっちさんから証拠のログも見せられて『ああ、これは総てBの責任だな』とわかりました。まあ実際には、あんなハッキリとしたログがあるんだから、あれを見た人間はみんな真相はわかっているわけでしたがね・・・ボク個人としては、今度の会社の不手際なやり方には大いに不満がありますし、にゃべっちさんに対しては本当に申し訳ない気持ちなのですよ」
「・・・」
「しかし残念ながら会社の決定なので、ボクのような下っ端がいかに力んでみたとて、どうにもならないのです。Bが、まだまだ使えない事はボクも重々承知していますし、リーダーのXもボクは前から評価していないしね・・・」
X氏に見下されていた小柄で貧弱なM氏が、かねてからX氏を快く思っていない事、だからこそ2人の相性が悪い事は毎月の月例打ち合わせで見ていたから、とうに承知はしていた。
C社の部長とM氏、X氏らが話をしている時のことだ。ちょうど向かい合わせのソファに座ったM氏の顔面めがけて、X氏が意図的に真正面からタバコの煙を吹きかける場面を何度か見た。タバコを吸わないM氏は、当然ながら苦々しく顔を歪めていたがX氏は一向にお構いなく、うだつの上がらない相手を軽蔑するような冷酷な態度で嫌がらせを続けていたのである。これは喫煙者の自分が見ても不快なシーンであった。
「例の件は会社の見解は別として、ボク自身は正直言って最初に話を訊いた時から、明らかににゃべっちさんの言い分の方が筋が通っているし、これは本当の事を言っているなと思っていました。逆にBやXの言う事は、最初から論理がまったく破綻していたからね」
「・・・」
「信じてもらえないかもしれないけど、ボクは一貫してにゃべっちさんの支持者だったんですよ」
と、M氏は上目使いに気弱げに笑って見せた。
「支持者とは、実に空虚な言葉ですね」
「は・・・?」
「支持しているというだけで実際に何もしないのでは、まったく意味がない・・・」
「う、うん・・・
ま、まあ・・・確かに、その通り。まあ、今のはあくまで私の個人的な見解であり、実は部長もホンネでは同じなんでしょうが、会社としては色々と面倒なシガラミガあるからね・・・」
「あの時は、ああするよりどうしようもなかったんだ」とでもいいたげなM氏の口調と、醜い苦笑が次第に鬱陶しく感じられた。
「それで・・・?
結局、何が言いたいのでしょうか?
あの話し合いの場での堂々たる主張の開陳ならともかく、今更こんな関係者の居ない飲み屋でそのような愚痴を訊いても、まったく意味がないと思うけど・・・」
と、腰を浮かせかけると
「勿論、そうです。こうして上司のTやリーダーのXには内緒で、プライベートににゃべっちさんを(居酒屋に)誘ったのは、ボクの気持ちを訊いて置いて欲しいというのもありますが・・・にゃべっちさんが仰る通り今更、済んだ事をあれこれ言っても始まらないですよね。ボクも営業ですから勿論、こうしてにゃべっちさんを誘ったのは、そんな無益な話をするためだけではないです」
と一拍置いてから、ジロリと目を光らせると
「次の仕事についての、ビジネスの話をしたいがためで・・・」
と、大見得を切った。
「結論だけ言えば、御社とは今後一切付き合うつもりはありません」
「ニベもないですな、ハハ・・・ ま、まあ・・・にゃべっちさんの事だから、そう言うだろうとは思ってましたがね。ともかく、話だけでも聞いてください・・・」
とM氏の口から、具体的な説明が始まった。
「どうです。これは、あくまでP社抜きでボクとの直接取引きだから、条件は今よりも遥かに良くなるでしょう。先にも言ったように、ボク自身としては例の件では、真実が見えていながら充分にフォローしてあげられなかったというところに、忸怩たる思いがあるからね・・・」
と言うと、M氏はジョッキを煽った。
「ところで・・・ズバリ訊きますが、にゃべっちさんは所属会社からは幾ら取ってますか?」
こうした話をすると、所属会社や間に入っている会社の中間搾取の実態が見えてしまうだけに、通常はこのような話はタブーとするのが暗黙の了解事項である。が、今回は事情が事情だけに、中間搾取の実態を知る意味で実際の金額を言うと
「そんなに抜かれてるのか・・・」
とM氏は心底、驚いたようだった。
「ウチが、S社に支払っている金額はね・・・」
と帰ってきた答えを聞くと、S社と所属のT社とで1/3が引かれている事が判明した。
あくまで、M氏が本当の事を言っていればというのが前提にはなるが、通常この種の中間マージンは10~20%程度と訊いていたから、2社合算でまずは妥当な線だろうと思われた。
「と言うことは、現状30%以上は抜かれているわけでしょう?
これがボクとの直接取引きであれば、全額とまでは言わないが経費分を引くだけでいいと思ってますから、10%程度で充分だと考えています。これだと額面が相当違ってくるし、是非とも検討してもらえないかと・・・」
こう言うとM氏は、酒臭い息を吐きながらあたかも伝家の宝刀を抜くような、気負った格好で見得を切った。
「御社とは今後一切付き合うつもりはないと、さっきも言いましたが聞こえませんでした?
たとえ、どんな条件が出ようともね・・・」
「う、うん・・・そうですか・・・まあ、僕が考えたのは・・・本当はにゃべっちさんとBが協力して、あと1年やって欲しいところでしたが・・・」
「・・・」
「にゃべっちさんがBとは一緒に出来ないと言う事から、ボクは個人的ににゃべっちさんとビジネスでお付き合いできればいいと思って、少し前から会社の仕事とは別に、色々と知り合いのところを当たって来ていたんです」
「私が一緒に出来ないという以前に、それはC社の意向だと思いますが」
「いや・・・それで今度は、会社を通さずにボク個人として、にゃべっちさんに協力したいと・・・ボクはボクなりに何とかしたい思いで、この数ヶ月間、頑張って営業をして来た事をわかってもらいたいな・・・」
といってM氏が開陳した話は、P社との契約ではなくM氏が独自ルートで開拓した仕事を個人的に廻すという提案である。
この時、唐突として脳裏に悪魔的な悪戯心が閃いた! Ψ(`∀´)Ψ
0 件のコメント:
コメントを投稿