契約は年度末の3月末までとなっていたが、一日も早く辞めたかったワタクシは例によって喫煙所でタバコを蒸していると、何故か必ず見計らったかのようにX氏がやって来た。その惚けた顔を見る度に
「何度も言いますが、あれだけバカにされてまで月末(契約満了)まで勤め上げる気は毛頭ないですから、そのつもりでおってくださいね」
と、強い口調で宣言すると
「私も特に、月末までというところに拘らなくてもいいと思うんですよ・・・結局はにゃべっちさんの人生なんだし、そこまで縛る事は出来ないと思っていますし・・・」
と、あたかも理解ありげな事を言っていた。
その年の3月は、月末の31日が月曜日となっていた(実際はどうだったのか忘れたが、話の便宜上そうしておく)。事実上の最後の週の木曜、即ち27日にX氏に
「私の勤務は、明日で最後という事にさせて貰いますので・・・」
と告げたものの、X氏の方では本気ではなく単なる嫌がらせくらいに思って聞き流したのか、まったく反応がないままに翌28日の金曜日を迎える事となった。そして、まるで職場にある総ての時計が止まってしまっているのではないか、とも思われるほどに長い長い「最終日」が、ようやく終わった。
用意してきた《紙爆弾》を手に、さりげなくX氏を部屋の隅に誘導する。
「では私は今日で最後なので、これで先に失礼しますが・・・ところでXさんに渡しておきたいものがあるので、お手数ですがバッグを持って来てくれませんか・・・」
と告げると
「はぁ・・・」
とX氏は、あたかもキツネにつままれたような顔をしながらも、鈍い動作でバックを持って戻ってきた。かつてB社員を守るため、会社ぐるみで手段を選ばぬ汚いやり方で「罠」を仕掛けた事に罪悪感があるのか、この頃は殆どこちらの意のままに動くまで骨抜きにされていたX氏である。
「これは帰ってからXさんに読んで貰いたいのですが、ここでは絶対に封を切らず家に帰ってから読んで頂きたいのと、他の人には見せずにXさんだけに読んで欲しいのです。まあ、他の人に見せるかどうかはXさんの自由ですが、その場合に大恥を掻くのは自分だけで、こっちはまったくなんともないですがね・・・」
と、せせら笑いながら強い口調で釘を刺しておくと、かなりの不安を感じたような目をしたX氏は、封筒を透かし見るようにしながら
「了解・・・」
とだけ、ボソッと答えた。
(なにが了解じゃ。 後で、吠え面かくなよ・・・クソオヤジが (`Д´)y-~~ちっ
と、憎い相手をひと睨みしてやると
「それではワタクシはこれで失礼しますが、Xさんはこれからも元気で頑張って下さい・・・」
と別れの挨拶をして、ようやく地獄の職場を脱出した。
やったー、ようやく終わったぞ~ \(^0^)/
と開放感に浸り、待つ間もなく来たエレベーターで10階から1階まで降りると、そこにはナント驚くべき光景が (/||| ̄▽)/ゲッ!!!
地獄の職場を脱出して、待つ間もなく来たエレベーターで10階から1階まで降りると、驚いた事にそこにX氏の姿があった!
こっちは、一番先に来たエレベーターで降りて来たのだから、X氏がエレベーターを使わず階段で先回りしてきたのは、その異常なまでの荒い息遣いからも明らかだったが、2階や3階ならともかく10階からエレベータよりも早く降りてきた芸当が、今もって不思議でしょうがない。が、ともあれ普段は鷹揚に構えていて、慌てた様子などは一度として見せた事のなかったX氏が、息も荒く1階まで先に駆け下りてきていたのだけは、紛れもない事実ではあった・・・
「え~っと・・・さっきの話ですが。にゃべっちさん・・・今日が最後ってのは、本当・・・?
明日以降は、もう出ないつもり?」
「なんですって?
この前から何度も言ってきたし、昨日も念を押しといたはずだが・・・少しは人の話を真面目に訊いたらどうなのか?」
「いや、それは訊いてたけど・・・しかし、それってのは正式に所属会社の許可とかも出ているって事?」
「所属会社の許可だぁ?
フン、笑わせんじゃないよ。こっちが辞めると決めたら、あんなクソ会社の拘束なんぞ金輪際受けるものではないわ」
かつてC社に嵌められた時に、動かぬログの証拠を提示され事情を聞いた時こそは憤慨してみせながらも、いざクライアントとの話し合いでは相手にいいように丸め込まれ
「互いのボタンの掛け違いだから、白紙に戻してこれからも仲良くやっていきましょうや・・・」
という相手の手前勝手なバカゲタ言い分すら、唯々諾々として受け入れた「いわゆる所属会社」
最早、金輪際頼むにも足らぬと相手にするべくもないではないか (メ-_-)ノ~┻━┻ガシャーン
「それはしかし・・・ちょっと、まずいんじゃないのかな?
今から会社(C社)に確認をしてみますので、少しだけ待って貰っていいですか?」
と言うと、携帯を取り出したが
「だから関係ないって言ったでしょうが!
今更、なに寝言ほざいてんだか。まあ、そっちは勝手にやってりゃいいよ (ノ-o-)ノ ┫オリャ」
と相手を無視して、さっさと帰途についた。
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